JUICE: 日本も参加するESA主導ミッション、いよいよ氷衛星へ向けて打ち上げへ

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今月、木星氷衛星探査計画 /ガニメデ周回衛星 「JUICE」は、太陽系最大の惑星である木星の氷衛星へと、8年の長きにわたる旅を始めることになっています。これまでNASAの「ガリレオ」などの木星探査機によって観測されてきた氷衛星ですが、氷衛星の探査に特化した機器一式を搭載したミッションはJUICEが初めてとなります。JUICEは欧州宇宙機関(ESA)が主導するミッションで、装置開発とサイエンスチームの両方に日本も大きく関わっています。

氷衛星のひとつであるガニメデとJUICE探査機のイメージ (ESA / ATG Medialab).

太陽系内にある異形の生命存在可能環境?

木星を周る三つの氷衛星はどれも表面は固い氷で覆われていますが、その下には全球にわたって液体の海が広がっていると考えられています。氷衛星は木星に近い方から外側に向かって、順にエウロパ、ガニメデ、カリストと呼ばれています。これらに液体の水が存在すると予想されていることは、生命居住可能な環境という点で太陽系の中で最も有望な場所だと言えるでしょう。ですが、たとえ生命の痕跡があったとしても固い氷の下に隠れ、遠く離れた地球から検出することは不可能です。このワクワクさせられる世界をより深く理解するには、実際に訪れてみるしかないのです。

氷衛星の環境は、地球や近隣の地球型惑星で私たちが見てきたものとは全く異なっています。全球規模の地下海ということだけでなく、氷衛星は木星の生み出す巨大な磁場の中にあって、それが作り出す太陽系最強の放射線環境の中に埋め込まれています。荷電粒子が木星の磁場に捉えられて高エネルギーまで加速され、氷衛星の表面に降り注ぎます。

ガニメデは、この磁場が強い影響を持つ世界の中で特に変わった存在と言えます。エウロパとカリストの周辺には、木星磁場が高速で回転することで弱い誘導地場が発生する一方で、ガニメデは固有磁場を有しています。つまり、固有地場を有する岩石・氷天体は太陽系の中で三つしか知られていない中、ガニメデはその一つであり、かつ、唯一の衛星なのです。ですので、ガニメデは木星の巨大磁気圏の中にあってその周囲に自身の固有磁場によりミニ磁気圏を形成し、そこでは二つの磁場が相互作用して、さらに複雑な環境を作り出しています。

この魅力があることからJUICEミッションではガニメデを主たる探査対象とし、探査機は三つの氷衛星に複数回のフライバイを行った後に、ガニメデの周回軌道に入る予定です。

NASAの木星探査機Juno(ジュノー)に搭載されたJunoCamがとらえた、ガニメデの補正後画像 (NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Kalleheikki Kannisto).

Made in Japan

JUICEには10の観測機器が搭載されていますが、4つの機器 (GALA、PEP/JNA、 RPWI 、SWI) については日本で開発したハードウェアの一部を提供し、さらに2 つの機器(JANUS、 J-MAG)については日本の研究者が共同研究者として観測プログラムに参加します。これらの機器一式は、衛星の内部や周辺の宇宙環境を探査するために設計されました。

GALA:ガニメデの地形を測定

「ガニメデの表面地形は主に氷でできていて、地球とはまったく異なっています。この氷の世界の地形の状況を把握し、それらがどのようにできてどのように進化したのかを解明することは、惑星科学の重要な課題です」とGALA-Japanの主任研究者である塩谷圭吾 准教授は説明します。

JUICEに搭載されるガニメデレーザ高度計(GALA)は、高感度・高精度で距離測定を行う機器です。JUICEがガニメデを周回する間、GALAはレーザをパルス照射し、ガニメデ表面からの反射を検出します。パルスの発信と受信の時間差を計測することにより、ガニメデ表面の地形や形状を数メートル単位で地形図にできるほどの高精度で距離測定をすることができます。また反射光の強さからは、氷でできた表面の反射率(アルベド)や傾斜、および粗さについての情報も得ることができます。

日本のチームはGALA内部の光学系のうち、受信したレーザ光をデジタル出力に変換するシステムの一部を担当しました。塩谷准教授が詳しく解説します:

PEP/JNA: プラズマの雨から生成される粒子

木星の磁場にとらえられた荷電粒子は、氷衛星の天体表面に降り注ぎます。このプラズマの雨が降り注ぐことで、”木星周囲のプラズマ環境に関する情報”を含んだ粒子が後方散乱したり、氷から放出されたりします。PEP/JNAではその粒子を観測することができます。

PEP/JNA-Japanの主任研究者である淺村和史 准教授は、氷衛星は希薄な大気しか持たないため、木星近傍のプラズマ粒子(イオンや電子)は、大気粒子と衝突してエネルギーを失うということがなく天体表面にまで降り込むことができる、と説明します。粒子の入射エネルギーが高いまま天体表面との衝突が起こると、自身が反射することによる後方散乱粒子や、表面構成粒子が叩き出されることによるスパッタリング粒子の放出が誘発されます。

PEP/JNAは、JUICEに搭載されるプラズマ環境計測パッケージ(PEP)を構成する6つの観測機器の1つです。日本のチームはPEP/JNAの電子基板の開発を担当しました。淺村准教授がPEP/JNAについて詳しく解説します:

RPWI:深部からの電波の反射

JUICEに搭載される電波・プラズマ波動観測器(RPWI)は、木星の強力な磁気圏の構造や運動を調べ、氷衛星の氷地殻や地下海の奥深くの観測に挑みます。さらに氷の割れ目から噴出する電離プリューム(海水が地下から噴出したのちに電離したもの)も検出できる可能性があります。

RPWI に搭載される巨大なセンサー群は、主成分プラズマ(イオンと電子)環境を測定し、電場と磁場の方向や強さを検出し、また木星の磁場で加速された粒子から出る電波を観測することができます。氷衛星の様々な深さで反射する電波を読み取ることで、パッシブレーダーとして(仕組みはGALAと似ていますが、RPWIがアクティヴにレーザを出すのに対し、ここでは木星から出る電波を利用します)氷の下部構造を調べる役割を果たします。さらに、木星から放出された電波が、氷衛星表面から噴出するプリュームを通過すれば、プリュームにより部分的に遮られた電波の変化からプリュームの物質の特徴を明らかにすることも出来ます。

日本のチームは、スウェーデン、フランス、ポーランド、オーストラリアのチームと共同で電波観測機能の高周波システム(RWIの3軸アンテナに接続されたプリアンプと高周波受信機)の設計を担当、また電磁波とプラズマ中のイオンとのエネルギー交換の様子を観測するソフトウエア開発を担当しました。

RPWI-Japanの主任研究者である東北大学の笠羽康正 教授は、このシステムは銀河背景電波を検出するだけの十分な高感度を持つことが確認できたので、木星系の強力な電波も微弱な電波も全て捉えることができると確信している、と話します。RPWIについて笠羽教授が解説しています:

SWI: 氷衛星の成分表

SWIはJUICE搭載サブミリ波観測器で、木星大気、氷衛星の希薄な大気成分や地表から発せられる熱放射の強度を測定します。

SWIは、520ミクロンと250ミクロン付近を中心波長として様々な波長の強度を測定する分光計です。この波長付近で放射されるメタン、水、酸素、一酸化炭素のような揮発性物質からの放射熱を、SWIが観測します。SWIは、日本のグループが提供した主鏡と副鏡およびモーターを提供した反射アンテナを用いて熱放射を受信します。

特に興味深いのはカリストの揮発性物質の組成です。カリストは木星の氷衛星トリオのうち最も活動的でない衛星と考えられていて、それがゆえにカリストの大気は氷衛星系を形成した物質の組成をそのまま保持している可能性があります。一方、エウロパとガニメデから出るプリュームを調べれば、氷の下に潜む地質化学的プロセスの証拠となり、生命存在可能な環境をつくるための成分表に関するヒントを得ることができるかもしれません。

J-MAG: 衛星の磁場を知る

JUICE搭載のJ-MAGは、磁場を計測する磁力計です。J-MAGはガニメデの内部磁場の構造や、エウロパやカリストを取り巻く誘導磁場、木星本体周辺の磁場を探査することになっています。

日本のグループは、J-MAGのセンサーの向き(アライメント)の較正方法の検討に貢献しました。J-MAGの二つのセンサーはJUICEの磁力計ブーム(折り畳み式の腕)の先端近くにあります。長いブームでは、センサーの絶対方向に十分な制限を与えるだけの剛性がありません。そこで探査機には本体(JACS)に直交する配置で二巻のコイルを巻き付け、コイルに電流が流れると磁場が発生する仕組みを組み込みました。このコントロールして作り出された磁場の方向をセンサーが検出し、そこからセンサーに関する正確なアライメントが決定できるようになっています。

この技術はJAXAの月周回衛星「かぐや」に適用したものと似ており、それが故に日本のJ-MAGチームが「かぐや」のために開発された解析技術をJUICEに適用させることができたのです。J-MAG日本チームの主任研究者である松岡彩子 教授(京都大学)が詳しく説明しています:

JANUS: 氷に刻まれた歴史

JANUSは、正式名称をラテン語で「Jovis, Amorum ac Natorum Undique Scrutator」とする観測機器で、氷衛星と木星を撮像するための可視分光映像カメラです。カメラには340nmから1080nm の波長範囲で異なる13種類のフィルターがあり、可視域から近赤外域までをカバーします。

JANUSは氷衛星の地形を記録し、それぞれの氷衛星の歴史を解読することが可能となるような特徴を捉えます。それは例えば、火山活動、衛星の重力により衛星同士が互いに引っ張り合うことで生み出される潮汐効果、組成や密度の変化を示すような氷の状態といった、地質学的な兆候として表れるものです。

JANUSは欧州で開発されましたが、その仕様やミッションゴールの策定などに日本のチームが貢献しました。引き続きJANUSによる観測、解析、データアーカイブ、教育やアウトリーチの準備などが行われることになっています。JANUS日本チームの主任研究者である春山純一 助教が説明します:

氷衛星への旅

JUICEは 4 月 13 日に、フランス領ギアナのクールーにある射場から打ち上げられる予定です。2024年から2029年の間、JUICEは地球と金星のそれぞれの近傍を通過することによって、太陽系外縁部の木星圏への軌道へ入るための重力アシストを両惑星から受けます。

JUICEは2031年に木星系に到着し、ガニメデ、エウロパ、カリストに複数回のフライバイを行います。そして2034年、ガニメデの周回軌道に入り、人類史上初めての氷衛星周回衛星となる予定です。

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


関連リンク:
JUICE Japan ウェブサイト
木星氷衛星探査計画 JUICE打上げトークライブ | (YouTube: JAXA相模原チャンネル)
Juice launch live (JUICE打ち上げライブ中継) | 欧州宇宙機関(ESA)