木星氷衛星探査計画「JUICE」搭載:
ガニメデレーザ高度計(GALA)

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木星氷衛星探査計画 /ガニメデ周回衛星 「JUICE」は欧州宇宙機関(ESA)が主導するミッションで、装置開発とサイエンスチームの両方に日本も大きく関わっています。日本が関わるJUICE搭載機器について、一つずつ詳しく解説しています。ミッションの概要についての記事は [こちら]です。

文: 塩谷 圭吾(GALA-Japan主任研究者)
GALA ガニメデレーザ高度計 概要書


図1. (左) ガニメデレーザ高度計GALA (トランシーバーユニット)。(右) JUICE探査機に搭載されたGALA (Hensoldt/Airbus).

木星氷衛星探査機JUICEの打ち上げが、2023年4月に迫っています(図1)。JUICEは欧州宇宙機関(ESA)が主導するプロジェクトで、氷衛星、とくにガニメデを周回軌道から精査します。ガニメデの表面地形は氷でできていて、地球とはまったく異なっています(図2)。この氷の世界の地形の状況を把握し、それらがどのようにできてどのように進化したのかを解明することは、惑星科学における重要な課題です[1-6]。また、ガニメデには液体の水から成る地下海が存在する可能性が指摘されています(図2)。地下海の存否や、存在する場合にその厚さや組成などの特徴を明らかにすることは、アストロバイオロジー(宇宙生物学)の視点に於いても、とても重要だと言えます。

図2. (左)ガニメデの表面地形. 赤印はGALAによるスキャンにおける典型的なレーザ照射スポットサイズ(50 m)とスポット間隔を表す(スポットの絶対的な位置を表すものではないことに注意). (右)ガニメデの大局的な変形と回転変動(模式図であり量の大小関係等は実態とは異なる). 地下海があれば生じる潮汐(潮の満ち引き)による変形(数m (最大 7 m 程度) に及ぶと見積もられる)を、GALAは検出できるよう設計されている(図はいずれも参考文献[6]より引用).

ガニメデレーザ高度計(GALA)は、JUICEに搭載される科学観測機器のひとつです(図1)[1,5,6]。GALAは「ガーラ」と読みます。GALAの機能は、簡単に言うと、高感度・高精度で距離測定をすることです。GALAの開発は、ドイツ(主導)、日本、スイス、スペインによる国際協力で進められています(図3)。我々日本チームは、受信系の後置光学系(BEO)、高感度のAPD検出器を含む焦点面アセンブリ(FPA)、アナログエレクトロニクスモジュール(AEM)の開発を担当しています(図4)[5]。

(この節は少しだけ専門的になりますが、) BEOは極めて微弱な受信光の信号ノイズ比を大幅に高めた上、FPA内の検出器上に再結像させる光学系です。その信号ノイズ比の改善は、ピンホール開口による空間フィルタリングと、高品質狭帯域フィルターによる波長フィルタリングによって実現しています。FPAは、内臓するAPD検出器によって受信光をアナログ電気信号に変換して出力します。FPAはまた、送信光の一部を APD 検出器に導入する光学経路も備えています。その目的は、同一検出器による送受信光の時間差計測、およびそれに基づく高精度の距離測定を実現することです。AEMは、後続のシステムがデータを扱えるよう、アナログ電気信号をデジタルに変換して出力します。これらの開発は、扱う信号が光からアナログ電気信号、そしてデジタル信号と多岐にわたり、また機械的・熱的にも込み入った、挑戦的なものでした。日本チームはこれらの開発によって、高感度・高精度で距離測定を行うGALAの開発に大きく寄与しています。

図3. GALA開発の国際分担(図は参考文献[5]より引用).
図4. 日本チームが開発を担当した後置光学系(BEO)、検出器を含む焦点面アセンブリ(FPA)、アナログエレクトロニクスモジュール(AEM)(図は参考文献[5]より引用).

GALAはガニメデ周回軌道から、ガニメデ表面までの距離測定を高精度で繰り返し行ってスキャンし、さらにその変動をモニターします。その結果、ガニメデ表面全域にわたる氷の地形の3D情報を獲得し、また地下海があれば存在するはずの潮汐 (潮の満ち引き) による全体形状の微小な変動の有無等を調べます。GALAの測定精度は、地下海がある場合に生じるガニメデの変形 (数 m (最大 7 m 程度) に及ぶと見積もられています)を検出できると評価されています[2-4]。

氷天体にレーザ高度計を適用するのは世界初です。また、天体全体の潮汐変形を利用して、直接は見えないマクロな地下海に迫るのは、GALAならではです。


関連リンク:

JUICE: 日本も参加するESA主導ミッション、いよいよ氷衛星へ向けて打ち上げへ
JUICE Japan ウェブサイト
GALA ガニメデレーザ高度計 概要書

参考文献:

  1. H. Hussmann et al., “The Ganymede laser altimeter (GALA): key objectives, instrument design, and performance”, CEAS Space J., 11 (2019), pp. 381-390.
  2. G. Steinbrügge et al., “Measuring tidal deformations by laser altimetry. A performance model for the Ganymede Laser Altimeter”, Planet. Space Sci., 117 (2015), pp. 184-191.
  3. J. Kimura et al., “Science objectives of the Ganymede Laser Altimeter (GALA) for the JUICE mission”, Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan, 17 (2) (2019), pp. 234-243.
  4. H. Araki et al., “Performance model simulation of Ganymede Laser Altimeter (GALA) for the JUICE mission”, Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan, 17 (2) (2019), pp. 150-154.
  5. K. Enya et al., “The Ganymede Laser Altimeter (GALA) for the Jupiter Icy Moons Explorer (JUICE): Mission, science, and instrumentation of its receiver modules”, Ad. S. R., 69 (2022), pp. 2283-2304.
  6. 塩谷ほか, “みんなでふたたび木星へ,そして氷衛星へ その5 ~ガニメデレーザ高度計GALAで測る氷の世界と地下の海~”, 日本惑星科学会誌Vol. 29, No. 3, 2020.