木星氷衛星探査計画「JUICE」搭載:
電波・プラズマ波動観測器(RPWI)

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木星氷衛星探査計画 /ガニメデ周回衛星 「JUICE」は欧州宇宙機関(ESA)が主導するミッションで、装置開発とサイエンスチームの両方に日本も大きく関わっています。日本が関わるJUICE搭載機器について、一つずつ詳しく解説しています。ミッションの概要についての記事は [こちら]です。

文:笠羽 康正(東北大学、RPWI-Japan主任研究者)
RPWI 電波・プラズマ波動観測器 概要書


電波・プラズマ波動観測器RPWI(Radio Plasma Wave Instruments)は,木星と氷衛星周辺の電磁場と冷たいプラズマ環境を完全に測定するユニークで初めての機会を提供し、木星磁気圏の構造や運動、その氷衛星への影響、そして氷衛星の大気・電離圏および氷地殻・地下海における発見的観測を担う。特に重要なのは、フライバイやガニメデ周回軌道上での氷衛星の電離層・表面・地下のセンシングである。

図1. JUICE探査機形状案および調整中の伸展センサー群配置(Airbus DS).
3m長のLP boom(LP-PWI)x4,10.5m長のMAG boom(RWI, SCM,および3つのJMAGセンサー),及び16m長のRIMEアンテナが見える.

RPWIは、日欧共同チームによって「低温電子・イオンおよび電場観測機能」、「電磁場三成分の波動観測機能」、「電波の方向探知・偏波観測機能」、「パッシブ地下探査レーダー機能や波動-粒子相互作用検出機能」を木星圏へ初投入する。欧州側にとっては米土星探査機カッシーニ、日本側にとっては月探査機かぐや・放射線帯探査衛星「あらせ」、・日欧共同水星探査機「BepiColombo」に搭載した電波・プラズマ波動・レーダー観測器群を継承・発展させたものである。

RPWIは、探査機の外側に巨大な電磁場計測センサー群を配置する(図1・図2)。

  • 4個のラングミュアプローブ(LP-PWI:10cmプローブ4個。電場3軸、〜1.6 MHz)
    それぞれ、独自の3m伸展ブームの頂点に設置される。
  • サーチコイル磁力計(SCM:磁場3軸 〜20 kHz)。
  • 3軸2.5-mダイポールアンテナ(RWI:電場3軸 0.08-45 MHz)
    この2つはJMAG(磁力計)も搭載した全長10.6mのブームに搭載される。
図2. RPWIの構成:探査機内に置かれるEBOX(LP-MIME・LF・HFの3レシーバ群,DPU,電源部)と3種のセンサー群(LP: Langmuir Probe,SCM:Search Coil Magnetometer,RWI:Radio Wave Instrumemt)

これらによって、以下の検出能力を初めて木星圏に持ち込む。

  • 低温電子・イオンと電場  
    (LP-PWI+ラングミュアプローブ受信機)
  • 電磁場三成分の低周波電磁波動
  •   波動-粒子相互作用検出機能 (*)
    (LP-PWI+SCM+低周波受信機)
    (*)RPWI日本チームメンバーはコンセプトとソフトウェアを提供。スウェーデン・チェコと)
  • 電波の方向探知・偏波・パッシブレーダー機能       
    (RWI + 高周波受信機)

私たちJUICE RPWI日本チーム(代表:東北大)は、スウェーデン・フランス・ポーランド・オーストリアのメンバーとの協力のもと、高周波(電波)観測機能(上記の太字部分)を提供した。銀河背景電波まで届く高感度を持つ。

図3. JUICE RPWI高周波受信機(HF)の計測範囲に入る木星電波源群.

この「RPWI高周波部」の観測周波数帯には、木星が放つ太陽系最強力のオーロラ電波、大気中で雷が放つ電波、そして氷衛星周囲のプラズマが放つ電波が存在する(図3)。地球にもオーロラ電波や雷電波は存在するが、木星の放射は桁違いである。RPWIは、初めて木星系へ電波の到来方向・偏波観測機能を持ち込み、これら電波源の発生場所や特性を初特定する。

図4. Passive Sub-Surface Radar (PSSR)の原理.

木星が放つ電波は、氷衛星を照らす強力な「サーチライト」としても機能する。「RPWI高周波部」は、その透過・反射を活用して、氷衛星の大気(電離層)や氷地殻・地下の探査も行う。前者は、強力な木星電波の掩蔽を用いて、探査機軌道が到達しないより下方に広がる氷衛星電離層の観測を実現する。通常時の電離層の構造解明とともに、地殻・地下活動が引き起こす突発的ガス噴出の検出も担う。後者では、木星電波の反射波によるパッシブ・サブサーフェイス・レーダー(PSSR)で、より野心的な「氷地殻とその地下」の探査へ挑戦する(図4)。

RPWIの他機能およびJUICEの他観測装置と連携し、木星と氷衛星周辺の電磁場とプラズマの環境を完全測定するユニークで初の機会であり、木星磁気圏と氷衛星にまつわる多方面の発見を目指す。

(図の出典:日本惑星科学会誌, 25, 3, 96-107, 2016.)


関連リンク:
JUICE: 日本も参加するESA主導ミッション、いよいよ氷衛星へ向けて打ち上げへ
JUICE Japan ウェブサイト
RPWI 電波・プラズマ波動観測器 概要書