世界の宇宙ニュース:太陽でもスーパーフレアは発生するのか

この1年、夜空は緑色やピンク色のオーロラで彩られ、北極や南極から遠く離れた低緯度の地域にまでオーロラが広がる様子が各地で見られました。この色鮮やかな夜空を生み出したものとは、11年の活動周期のピークにある太陽の活動によるものです。「太陽活動周期」とは太陽表面を踊る黒点の数が周期的に増減することが特徴的で、惑星間空間に高エネルギーの粒子を放出する太陽フレアやプラズマ噴出といった現象も起きます。放出された粒子が地球まで届くと、地球の磁場にとらえられた粒子がらせんを描きながら降り込み、大気と衝突して光の爆発を引き起こします。

太陽観測衛星「ひので」がとらえた太陽のX線画像 (NAOJ / JAXA)

これまで太陽活動の影響と言っても、活動が活発な時期に地球でオーロラの範囲が広がる、といった事象にほとんどの場合収まってきました。ですが、もし太陽で更に大規模な爆発現象が起こったらどうなるのでしょうか。

「太陽によく似た恒星では、太陽フレアを遥かに上回る規模の『スーパーフレア』が生じることが知られています。」太陽系科学研究系の鳥海 森(とりうみ しん)准教授はこのように説明します。

ドイツのマックス・プランク太陽系研究所が主導し、国際的な科学学術誌「Science」に報告された最近の研究では、NASAのケプラー(Kepler)宇宙望遠鏡が太陽によく似た恒星、約56,000個を調べました。研究チームは、典型的な太陽フレアの100倍から1,000倍ものエネルギーをもつ、およそ3,000回の恒星フレアを特定したとしています。

「今回の論文では、新たな解析により、スーパーフレアは1つの星あたりおよそ100年に1回と、従来の見積もりよりずっと高い頻度で生じるという興味深い結果が得られました。JAXA宇宙研が中心となって開発する『高感度太陽紫外線分光観測衛星 SOLAR-C』は、太陽フレアを詳細に観測し、フレアがどのように発生するのかを解明します。このような知見がスーパーフレアの仕組みの解明にも役立つことを期待しています。」

鳥海 森 准教授

2006年に打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)に続き、JAXAと国立天文台(NAOJ)では現在、次期太陽観測衛星、SOLAR-Cの開発を進めています。SOLAR-Cは、温度が約1万K(ケルビン)[*] の彩層から100万Kのコロナ、さらに1,500万Kにも達することがある太陽フレアといった、太陽でもきわめて高温である外層を観測できるように、紫外線で太陽を観測します。主な科学目標とされている太陽フレア発生メカニズムの理解のためには、高温ガスを見る性能だけでなく、地球で起こる最大規模の地震の何百万倍もの膨大なエネルギーをわずか数分から数時間の間に放出することもある爆発現象をとらえるための解像度を持つことも不可欠です。

恒星活動で著しく大規模な爆発現象が起こると、単なる“光のショー”以外の影響がもたらされる場合もあります。太陽の場合、エネルギーの高い「太陽高エネルギー粒子」が到達すれば、人工衛星や、果敢にも宇宙に出て行った人たちの健康や生命そのものにとって脅威となることがあります。これは私たちが人類を月面に再び立たせることを目指す中で、慎重に監視していく必要があるものです。

篠原 育 教授

「太陽フレアによって生成される太陽高エネルギー粒子 (SEP)は、月面での宇宙飛行士にとって危険要因の一つです。」 太陽系科学研究系の篠原 育(しのはら いく)教授はこのように説明します。「SEPが太陽からどのように月に到達するかを予測する宇宙天気は、日本人宇宙飛行士が月に降り立つ時代の日本にとって重要な研究テーマです。JAXAには、太陽観測衛星『ひので』やSOLAR-C、水星探査機『BepiColombo/みお』、ジオスペース探査衛星『あらせ』など、太陽からジオスペースまでを観測する観測衛星を持っています。これらのユニークなデータセットを利用して、SEPが惑星間空間をどのように伝わり、月面にどのような影響を与えるかを研究することができます。月面宇宙天気予報を実現するために、私たちの広範なデータセットや日本の他の研究リソースを活用して研究開発を進めることが必要と考えています。」

この研究で観測されたようなスーパーフレアの頻度が仮に私たちの太陽にも当てはまるとすると、宇宙の観測が始まってから観測されてきた太陽フレアをはるかに超える、膨大なエネルギーをもつ巨大スーパーフレアが発生する可能性があります。人類の宇宙進出計画が進む中、私たちが他の星を「我が家」と呼べるようになる前に、太陽フレアの発生源についての理解を深めることや、危険をもたらすような事象を事前に予測できる能力を高めることが不可欠なのかもしれません。 

[*] 0 K(ケルビン)は正確には-273.15°Cですが、極高温の太陽外層の言及においてこれらの単位は誤差範囲内とみなしています。

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


“世界の宇宙ニュース” (旧”海外の宇宙ニュース”) シリーズは、世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク:
・論文 Sun-like stars produce superflares roughly once per century, Vasilyev et al. 2024 (外部リンク)

次期太陽観測衛星SOLAR-Cウェブサイト (外部リンク)
SOLAR-C X アカウント (外部リンク)