彼の映像を観たか?:JAXA 国際トップヤングフェローのジェームズ・オダナヒュー博士が2021 Europlanet Prize for Public Engagementを受賞

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国際トップヤングフェロー、ジェームズ・オダナヒュー(James O’Donoghue)博士が、2021年のEuroplanet Prize for Public Engagement を受賞しました!オダナヒューは、自分のやっていることは動画を用いて科学的なアイデアをフツウにわかるように伝えることであり、それが米国連邦政府機関の閉鎖がきっかけとなって始まったと語ります。


「数十件の『いいね』や視聴回数はあってもいいだろうと思っていたのですが、ある動画をTwitterで公開したところ、2日間で160万回も再生されたのです」太陽系科学研究系に所属するオダナヒューはこのように説明します。「数時間で作ったものが、何百万人もの方に数日間で届くということを実感し始めました。80億人近い総人口のうち、天文学者は1万人程度です。大学や研究機関が行う講演会などに気軽に参加できる状況にない人にとって、動画でのアウトリーチは溝を埋める良い方法だと感じています。」

ジェームズ・オダナヒュー(James O’Donoghue)博士。NASAのIRTF 望遠鏡の前にて。

オダナヒューは太陽系の巨大ガス惑星の専門家ですが、今回の称賛の対象となったのは専門分野に関連するものではありません。彼は自身の研究に加え、さまざまな科学的アイデアを説明するための100を超える短い動画を作成してきました。自身のTwitterでこれらの ”一口サイズ” の動画を共有すると、ニューヨーク・タイムズ、ビジネスインサイダー、デイリー・メール、フューチャリズムといったメディアの記事に登場しました。 これら様々なサイトの幅広い読者層に訴えたことは、オダナヒューの作品の魅力がどのようなものかを示しています。 Europlanetとはヨーロッパの惑星科学者をつなぐネットワーク機関で、惑星科学のコミュニケーションや教育における革新的で社会的に影響力のある実践法を開発した人材に授与される、Europlanet Prize for Public Engagementを今回受賞したことは、彼の大きな業績だと言えます。

「これらの動画の目的は、科学的な概念に関する多くの情報を、短時間で、できるだけ楽しくユニークな方法で伝えることです!」オダナヒューは説明します。「私は、一回見たら忘れないような視覚的なデモンストレーションを提供することで、子どもから大人まで、フツウに知られていることと科学を理解するために必要なこととのギャップを埋めたいと思っています。」

恒星日と太陽日の比較。地球そのものは23時間56分で自転している(恒星日、白色の線)が、太陽が南中してから次に南中するまでの間隔は24時間ある(太陽日、黄色の線)。もし太陽と地球の距離が、(他の恒星と地球との距離がそうであるように)もっと大きなものであったならば太陽日は恒星日に近づく (J. O’Donoghue)。

オダナヒューは、地球と太陽系に関する数多くの重要な事実が、あまりにも簡単に教えられていたか、すぐに忘れられてしまったか、または全く教えられていなかったことに気が付いたと言います。その例として地球の自転周期を挙げます。これは通常24時間と考えられていますが、より正確には23時間56分です。

「これはあまり知られていないようですね、」オダナヒューはこう話します。「さらに、これを知っている人は、うるう年がある理由がそれだと考える場合も多いようですが、実はそうではありません!」

うるう年があるのは、地球の自転によるものではなく、太陽のまわりを周る地球の公転によるものです。地球が太陽の周りを一周するのに365.25日かかりますが、便宜上、365日とカウントしています。そこで4年ごとに、「うるう日」を1日設け、地球の実際の公転に追いつくようにしています。オダナヒューは、地球の自転の様子、なぜ「うるう年」が必要なのか、この両方を説明する動画をそれぞれ作成しました。

「『うるう日』を追加しないとどうなるか、を示す動画も作りました(笑)。」オダナヒューは振り返ります。「簡単に言うと、季節がずれてしまうんです!」

うるう年がないとどうなるかをシミュレーションした動画。シミュレーションの開始は2017年で、2425年1月1日には季節が初秋。季節が一つ分(99日分)、ずれてしまうことがわかる (J. O’Donoghue)。

通常、彼の作る動画は1分に満たない短さで、数段落の文章で説明することに比べれば、目で見て得られる情報がいかに効率的に知識の共有を進めるのかがわかります。オダナヒューは、動画のもつ力を認識することは、科学者が自分たちの研究を共有する上で大いに役立つと話します。

「動画を追加することで、新しい科学成果に関するニュースにはるかに多くの人々を引き付けることがわかっています」オダナヒューはこう指摘します。「通常、新しい発見などの記事やプレスリリースは1000ビューほどの閲覧数を獲得すると思われますが、もしエキサイティングな画像や動画があれば、これを10倍や100倍にすることもできます。」

オダナヒューは、動画の活用によって、そのトピックを伝えるニュース記事がより多くなることに気が付いたそうです。つまり親しみやすい画像や動画を活用することで、広報チームの効率も飛躍的に高まる可能性があるのです。この理由の一つは、動画が特に若い世代を中心に幅広く人々に届くことであり、そのことが次世代の科学者やエンジニアを生み出すことにもつながるはずです。

「最近の科学的発見に関連しない動画ですら、何百ものニュースで取り上げられました。」オダナヒューはこのように話します。「これは、サイエンスが視覚的に伝えられると人々が高い関心を持つという事実を際立たせます。」

オーロラによる木星の全球高層大気の加熱。 オダナヒューの研究は、木星の驚くほど高い温度の原因がオーロラであることを明らかにした。 この動画は、ISASのウェブリリースTwitterで使用され、ISASで最も人気のあるツイートの1つになった (J. O’Donoghue)。

オダナヒューが最初に作成した動画は、彼自身の珍しい科学的発見を可視化したものでした。彼が発見したのは、土星の環(ring)が「リング・レイン (rain:雨)」と呼ばれる現象により土星本体に降り注いでいることでした。この研究成果と動画はニューヨーク・タイムズで2018年12月17日に公開されました。そのわずか数日後、35日間続く米国連邦政府機関の一部閉鎖が始まりました。当時、NASAゴダード宇宙飛行センターを拠点としていたオダナヒューは、研究室に出入りすることができなくなり、思いがけず時間の余裕が生まれました。

「メールの確認すらダメ、仕事をするなと通達があったのです!」こう振り返ります。「手持ちぶさたになり、それまでに誰も作っていないと思ったので、8つの惑星の傾きを正確に再現しつつ、それらが正しい相対速度で太陽のまわりを公転する様子を動画にしてみたのです。」

この動画こそが、Twitter投稿後の2日間で160万回も再生された動画です。政府機関の閉鎖が続くにつれ、Twitter界隈の人々がより多くのことを要求するようになり、オダナヒューは太陽系の中で光が進む様子を見せることで光速というものを実感できる動画を作り、次の”ヒット作”となりました。実は、これは彼がつくりたいと長年思っていたものでした。

2つの準惑星を含む太陽系の惑星の自転と傾きを、地表のマッピング画像とともに表した動画。左上から右に:水星、金星、地球、火星、準惑星ケレス(セレス)。左下から右に:木星、土星、天王星、海王星、準惑星冥王星 (J. O’Donoghue)。

「私が選ぶトピックは、うるう年が必要な理由など、よくある疑問をネタにしている場合があります」オダナヒューは説明します。「そうではなく、例えば、遠い昔に月が地球にもっと近かった頃にどう見えていたのかなど、私自身が見てみたいから作ったというものもあります。」

動画を作成するのに、オダナヒューはAdobe After Effects を使用しています。すでに他のAdobe製品を使っていたのが理由です。彼はオンライン上の動画、ブログ、ウェッブ上のフォーラムを参考に疑問点を解決しつつ、ソフトを使いこなすようになっていきました。しかし、これがスキルを積み上げるための最も効果的な方法ではなかったと話します。

「私が作成した最初の50ほどの動画では、新しい動画を作る度に新しいことを学びました」オダナヒューは説明します。「新しく動画を作ろうとしているひとにアドバイスを与えるとしたら、少なくとも使っているプログラムの簡単なオンラインコースを受講することをお勧めします。自分で堀り進めていくという私の方法は、最終的にはうまくいったとは思いますが、いくつかの最初に知っておくべき重要なことを知らなかったために、おそらく多くの時間を無駄にしたと思います!」

太陽系の中で光が進む様子を表した動画。モノサシを替えると、高速を速く感じたり遅く感じたりすることがわかる (J. O’Donoghue)。

とは言っても、オンライン空間を探索して解決策を探し出すこと自体を楽しんだ、とも話しています。いろいろと調べたことが、その時は余計なことであっても、後の動画作成において役立つこともありました。

「何よりもまず、自分がしていることを楽しむことが重要です!」彼はこう結論づけています。

Europlanetの賞を受賞したオダナヒューは、動画を見て、いいね!と言ってくれたり刺激的な質問をしてくれたすべての人と、学校からプラネタリウムまで動画を教材に使ったと教えてくれた教育関係者に感謝していると言います。また、彼の妻であるジョーダンに長年にわたって忍耐強くいてくれたことにも感謝しています。オダナヒューは、研究者としての仕事の一環として、引き続き動画を作成する予定です。彼がEuroplanetからこの賞を受賞したことで、宇宙機関のような大規模科学組織にとってアウトリーチがもたらす効果がいかに大事であるかを示すことができればよいと考えているそうです。

「社会における科学という観点に立つ時、アウトリーチは科学研究の不可欠な部分であるべきで、科学研究がひとびとのお金で実施されている以上、アウトリーチをアクセスできる形にし、科学のフロンティアで進行中のワクワクが共有されるように努力する義務があると信じています」とオダナヒューは言います。 「私は、事前の知識がどうのこうのといった心配をすることなく、世界中のどの年齢層のひとにもアウトリーチすることを目指しています。」

(文: Elizabeth Tasker)


関連リンク:

The Europlanet Prize for Public Engagement