太陽系の外から見れば、地球も金星も同じ?:違いのわかる観測をUVSPEXで実現する
いま私たちは、恒星のハビタブルゾーン(生命居住可能領域)内で公転していて地球と同等のサイズ(※)である太陽系外惑星を20以上知っています。これだけの情報から、これらが私たちの地球と同じような惑星である、と思って良いのでしょうか?
「ハビタブルゾーン」とは、理論的に考え、地球そのものをその場所に持っていったとして、液体の水がその表面で安定して存在出来る条件が満たされる、恒星からの一定の距離の範囲のことを指します。問題は、ハビタブルゾーン内で惑星が見つかったからと言って、どれだけ地球に近いのか、実際に生命居住性を宿しているのか、それをどうやって知るのかということです。
発見された惑星が地球よりはるかに大きい場合には、私たちはあまり期待しないほうが良いということになるでしょう。半径が地球より約50%以上大きい惑星は通常、岩石よりずっと低い密度で出来ていて、太陽系の巨大ガス惑星のように厚い大気を抱えていることを意味しています。こういった惑星の大気は、仮に惑星に固体表面があったとしても、その周りに途方もない熱と圧力を生み出し、ハビタブルゾーンにあることとは関係なしに惑星表面に液体の水が存在することを困難にします(つい最近の研究成果を考えれば、不可能とは言いませんが)。
ハビタブルゾーンにあるのが岩石惑星だとわかったらどうでしょうか?地表に水が存在できる状態だと仮定することは合理的でしょうか。残念ながら、同じようなサイズだからと言って、ハビタブルゾーン内の惑星が地球のように生命を維持できる条件にあると言い切れるわけではありません。例えば太陽系では、地球と金星の大きさおよび質量はよく似ています。しかし、金星は温室効果ガスである二酸化炭素が豊富な厚い大気で覆われているため、鉛を溶かすのに十分なほどの表面温度となっています。もし地球が金星のような大気をもっていたら、ハビタブルゾーン内にあっても熱くなりすぎてしまうでしょう。
似た者同士であるはずの地球と金星がどのように進化の道筋を違えてしまったのか、正確なことはわかっていません。金星は、正確には太陽のハビタブルゾーン内に位置しておらず、強めの太陽光が過酷な環境へと進化させた原因である可能性はあります。
しかし、地球が生命居住可能な状態を維持出来るためにいるべき領域の明確な境界は不明です。ハビタブルゾーンの内側・外側の境界は通常、地球が炭素循環によって大気中の二酸化炭素のレベルを調整することのできる能力によって決まります。二酸化炭素は温室効果ガスであり、量が多いときには地球全体を効率よく温めることになり、量が少ないと冷却されることになります。そのため、二酸化炭素レベルを調節できることは、地球がちょうど居心地よく地表に液体の水を持つことのできる公転軌道の範囲を拡げることを可能にします。
しかし、炭素循環以外にも、二酸化炭素レベルのコントロールに関与する要素があります。海は二酸化炭素の吸収材であるため、海があることでハビタブルゾーンが拡大し、地球に似た惑星であれば金星周辺の軌道上であっても生命居住可能であるとも考えられるのです。あるいは、金星がたどった”運命”には、内部構造の違い(金星に惑星固有磁場がないことから推測される)や、金星がプレートテクトニクス(プレートが互いに動くことで大陸移動などが引き起こされること)を発達させなかったことなどの、他の要素が関係している可能性があります。この場合は、もし金星がいまの地球がある場所に誕生したとしても、”ハビタブル(生命居住可能)”にはならなかったでしょう。言い換えれば、あるサイズの惑星が中心星からどの距離にある、という情報だけでは、その惑星が ”地球” なのか ”金星” なのかを見極めることは難しいのです。
しかし、現在JAXAで開発されている新しい機器によって、惑星が地球に似ているのか、それとも灼熱地獄である金星に似ているのか、見極める方法が確立されようとしています。この機器は「UVSPEX」と呼ばれる紫外線分光器(117〜144 nm)で、ロシア主導の紫外線観測を行う大型宇宙望遠鏡計画・WSO-UVに搭載され、2025年に打ち上げられる予定です。
NASAのケプラー宇宙望遠鏡のように次々と系外惑星を発見してきたプラネット・ハンター達と同じく、UVSPEXは主星の前を通過(トランジット)する惑星を探します。惑星が主星の前を通るたびに、わずかですが主星の光が遮られるため、主星の明るさは周期的に低下するように見えます。可視光での観測は、金星でも地球でも、同じサイズの惑星であれば同様の光の減衰を引き起こします。それに対し、紫外線で観測すれば両者は大きく異なって見えるのです。
金星の二酸化炭素からなる大気は、地表近くにおいては熱を閉じ込めますが上層では冷却剤として機能しています。大気の最外層(外圏大気)では、二酸化炭素を多く抱えた金星では約200〜300 K(-73°C〜27°C)ですが、酸素が豊富な地球では約1000Kです。気温が高い地球の外圏大気は拡がっていますが、対照的に金星の外圏大気は比較的小さいままです。
ここが重要なポイントです。なぜなら、外圏大気は紫外線を吸収するからです。主星からの紫外線は、通過中の惑星の固体部分に加えて外圏大気によっても遮蔽されます。つまり、惑星が同等のサイズだとしても、金星に似た大気成分をまとう惑星に比べると、地球に似た惑星の方が光の減衰がはるかに大きくなるのです。さらに、太陽のような星よりも個数が多い赤色矮星の周りの系外惑星では違いがより分かりやすいと予想されます。これらの恒星は太陽のような恒星より数桁も多い極端紫外線(EUV)を放射します。そしてこのことが、その周りを公転する惑星が酸素豊富な地球に似た大気を持つ場合、10,000 K(9700°C)まで外圏大気を加熱しさらに膨張させているであろうからです。
したがってUVSPEXは、ある恒星を周回する惑星が地球のような大気を持つのか、金星のような大気を持つのかを比較的迅速に識別する方法を提供します。UVSPEXがこの手法を最初に試すべき最適ターゲットは、小さい岩石惑星、または恒星の近くを公転しトランジット法での光量落差が大きく分かりやすい惑星になります。もしこの手法が成功すれば、将来的に、ハビタブルゾーン内の地球サイズの惑星を網羅的に調べ尽くし大気が地球に最も似ているものを特定していくのでしょう。
地球の大気は紫外線を遮断してしまうため、紫外線によるトランジットの観測は宇宙で行われなければいけません。ハッブル宇宙望遠鏡も紫外線で観測しますが、その軌道は地球の酸素コロナ(酸素原子からなる外圏大気)内にあり、一部の紫外線が遮断されるため最適ではありません。UVSPEXは ハビタブルな世界を識別する道を切り拓くパイオニアなのです。
この研究で得られる結果はハビタブルな世界を見分けるだけでなく、そこへの進化経路を解明するための手がかりとなります。 私たちの太陽系における最大の疑問の1つは、なぜ地球と金星がこれほど道を違えてしまったのかということです。 それが受け取る太陽放射量のみによるのであれば、UVSPEXやその先の発展形の計画において、地球のような大気を持つ惑星と金星のような有害な大気に覆われる惑星との境界線は、主星からの距離によって明確に区分けされることが確認されるでしょう。もしその境界が理論予想されるハビタブルゾーンの境界線と近い場合には、理論が正しいということになります。
あるいは、金星に似た大気を持つ惑星と地球に似た大気を持つ惑星が、中心星からの距離できれいに分かれることなく混在していることを発見するかもしれません。これは惑星大気の進化の違いが星からの放射量以外の理由によることを示唆します。この、他に手がかりがない状況では、UVSPEXのような観測をすることこそが宇宙生物学(アストロバイオロジー)的観点から最も興味深い対象となる、地球のような世界を同定する手っ取り早い方法となるでしょう。酸素外圏大気が大きく拡がった惑星には二酸化炭素が少ないはずであり、この観測から大気中二酸化炭素濃度を推定することができます。つまりこういった観測から、地球で大気中の二酸化炭素レベルを制御している「炭素循環」の存在を他の惑星において確認できる可能性があり、海やプレートテクトニクスを持つかもしれない、地質学的に活動的な惑星の検出が可能かもしれないことを意味します。
このような系外惑星の分類が可能になることは、次世代の地上望遠鏡と宇宙望遠鏡の両方にとって重要なことです。これらの望遠鏡は、広い波長帯で透過光や反射光を分光観測することで適温状態にある惑星大気の特性を評価します。ですがこれは非常に時間のかかる観測であり、まず最適な“候補“となる惑星を選択することが、観測機器を最大限に活用するためには重要です。この制約の下で研究を進めていく上で、UVSPEXは、恒星の周りに地球のような世界を見つけ「私たちは独りぼっちなのか?」という質問への答えに近づくための、鍵となる役割を果たすでしょう。
(※)ここでは、半径が地球の1.6倍未満、または質量が地球の6倍未満の惑星として定義。密度に関しての現時点での統計では、このサイズの惑星は岩石(地球型)惑星である可能性が高いとされる。
(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)