海外の宇宙ニュース: NASAのパーシビアランス、初の火星サンプルを採取し将来の帰還に備え保存

今月、NASAの火星探査車「パーシビアランス(Perseverance)」ローバーが火星表面の岩石に穴を掘り、コアサンプルを採取、容器内に保存することに成功しました。初の火星岩石サンプルは、パーシビアランスが今後収集することになるサンプルとあわせて、NASAと欧州宇宙機関(ESA)が共同して実施するMSR (マーズ・サンプル・リターン)によって、将来、地球に届けられることになります。今回のサンプル採取&保存は、火星圏からサンプルを地上の研究室に持ち帰って分析するという、火星探査における新時代の始まりを意味します。

穴を掘り、サンプル採取し、それを容器に保存する様子は、ISAS将来計画・火星衛星探査計画(MMX)のチームメンバーが大きな関心をもって見守りました。2024年度の打ち上げを目指すMMXは、火星の二つの衛星のうちで内側にあるフォボスからのサンプルリターンを狙っています。小惑星リュウグウの表面に短時間タッチダウンすることでサンプルを採取した「はやぶさ2」とは異なり、MMXの探査機はフォボスに着陸して、表面から少なくとも2cmよりも深い地下から物質を採取することを、コアリングという手法で行うことになっています。

8月末、パーシビアランスの火星岩石を採取する最初の試みが成功とならなかった時に、多岐にわたる宿題を持ち帰ることになったのだと、エンジニアの戸梶歩は話します。

初の火星のサンプル採取成功おめでとうございます!一回目のサンプル採取がうまくいかずに空っぽだったときは一筋縄にはいかない火星圏探査の難しさを感じざるを得ませんでしたが、迅速に原因を究明して二回目のサンプル採取では見事にサンプル採取に成功するあたりはさすが底力のあるNASAというところだと思います。

火星衛星探査計画MMXには今回Perseverance Roverが火星のサンプルを採取するのに使用した採取機構と同様の仕組みのコアリング方式のサンプル採取機構が搭載されます。地球上ではコアリング方式でのサンプル採取というのは珍しいやり方ではないのですが、土壌の素性がよくわからないときにはPerseverance Roverでの最初のサンプル採取時のようにうまくいかないことがあります。MMXの場合は2回のトライしか想定されていませんので、その二回のチャンスをいかせるように、考えられうるどのような環境条件の中でもサンプル採取ができるようにサンプル採取機構をはじめとしたMMX探査機システムの開発が進められています。

-戸梶 歩 (火星衛星探査計画(MMX)エンジニア、国際協力、広報、輸出入管理担当)

MMXがフォボス表面でのコアリングによるサンプル採取で問題に直面した場合に備え、NASAによって開発されている第二のサンプリング装置、すなわちニューマティック(空気圧)採取機構も搭載しています。この「P-サンプラ」と呼ばれる機器は穴を掘ることなく、フォボスの表面から物質を採取します。

MMXミッションは、2029年にフォボスで採取したサンプルが入ったカプセルを地球に届けることになっています。パーシビアランスが採取したサンプルは2031年頃に別のミッションによって地球に届けられることになっているため、それより少し前になります。つまり、火星圏で得られた2種類のサンプルを、数年の間に、両方とも手にすることになるのです。

現在「はやぶさ2」が採取したサンプルを保管するISASの地球外物質研究グループ長、地質学者である臼井寛裕にとって、火星圏からのサンプルリターンは、キャリアをスタートさせた当時においては、その実現がとても想像できないほど大きな目標であったようです。

火星サンプルの回収、おめでとうございます。火星サンプルリターンにとって大事な一歩であり、それは惑星科学のみならず人類の夢でした。そして、私が15年前に火星の地質学者としてキャリアをスタートさせた当時、火星サンプルリターンが現実となることは全く想像できませんでした。

-臼井 寛裕 (太陽系科学研究系 教授)

火星衛星自体からの物質に加え、MMXがフォボス表面で採取するサンプルには隕石が火星に衝突した際に放出された、火星本体表面からの粒子が含まれていることが期待できます。パーシビアランスのサンプルは火星の一カ所(ジェゼロ・クレーター)から多くの物質を帰還させることになります。一方、MMXの火星サンプルは、長い歴史の中、火星全球のどこかで隕石衝突が起きるたびに飛来して堆積してきた粒子であると考えられます。そのため両ミッションからのサンプルは互いを補完し、両者とも火星の過去を理解する上で重要なものとなるでしょう。

臼井 寛裕 教授

ISASの研究者である兵頭龍樹と菅原春菜はMSRキャンペーンとMMXの両方のサンプルを分析することを心待ちにしています。兵頭は、私たちのお隣の惑星を理解しようとする科学的探究は全世界の科学者を巻き込んだ素晴らしいものだ、と話します。

人類が初めて月の石を持ち帰ってから50年強。現在、人類は火星に手を伸ばしています。今回、NASAのパーサヴィアランス・ローバーが、長年の風化に耐えた岩塊を掘削し、サンプルを無事に保管チューブに詰め込むことに成功しました(おめでとうございます!)。今後は、着陸地点であるジェゼロ・クレーターのさらなる物質採取を続け、最終的に2030年代前半の地球帰還を目標にしています。一方、JAXAのMMX計画で2029年にフォボス表面から持ち帰られると期待される火星物質は、ジェゼロ・クレーターの物質とは異なると考えられます。このように世界各国が独立して進める火星物質サンプルリターン、その多様なサンプルが将来協働で火星史を包括的に紐解き、火星生命の生存可能性まで明らかにするかもしれません。

-兵頭龍樹  (太陽系科学研究系 国際トップヤングフェロー(ITYF))

火星が温暖湿潤だった頃に水が流れていたと考えられるジェゼロ・クレーターから採取するパーシビアランスのサンプル、そして、MMXがフォボスから持ち帰る、火星がどのように進化してきたかの手がかりを与える可能性のある火星サンプルの両方について、菅原は、火星の過去における生命存在の可能性について解明することができれば、とコメントしています。

菅原 春菜 特任助教

大成功、おめでとうございます! NASAのパーシビアランス ローバーが遂に火星サンプルの採取に成功したというビッグニュースにとてもワクワクしています。火星サンプルリターン計画(MSR)は長期的なミッションになりますが、地球外生命に出会うという人類の夢を載せたカプセルが地球に届けられる日を心待ちにしています。

私たちJAXAが2024年に打ち上げを目指す火星衛星探査計画MMXでは火星衛星フォボスからサンプルを持ち帰ることを計画しています。このフォボスサンプルの中にも火星物質が含まれることが示唆されています。これまで、火星の研究は機器観測や火星隕石に頼るしかありませんでしたが、実際に火星から目的とするサンプルを手に入れ、この手で分析できる時代が到来しようとしています。今後ますます火星環境の変遷史や火星生命の存在についての理解が加速していくことが期待されます。

-菅原 春菜 (太陽系科学研究系 特任助教)

川勝 康弘 教授

MMXミッションの指揮を執る川勝康弘プロジェクトマネージャは、火星圏からのサンプルリターンの新しい時代の到来と、そこから間違いなく得られるであろう発見を心待ちにしています。

火星表面でのサンプリング、成功したとのこと、おめでとうございます。 一度目の課題に適切に対処されたのでしょう。これからも、数々の興味深いサンプルの採取を期待します。 火星圏探査も、いよいよサンプルリターンの時代に入ります。PerseveranceとMMXで、新しい時代を引っ張っていきましょう。

-川勝康弘(火星衛星探査機プロジェクトマネージャ)

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


“海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク:

“新時代を迎える火星生命探査における火星衛星探査計画「MMX」の役割”
火星衛星探査計画(MMX)
地球外物質研究グループ
「はやぶさ2」プロジェクト