海外の宇宙ニュース:NASA のINSIGHT、火星の内部を覗き込む

NASAの火星探査機InSightが検出した”火震”(火星で起こる地震)が、赤い惑星の内部構造を明らかにしました。地球で起こる地震や火震は、惑星内部の岩が突然破壊されることによって引き起こされるもので、地震波を励起します。この地震波は、火星全体に伝わるとき、例えば鉄分を多く含む核の端を通るときなど惑星内部で物質が変わる境界で反射します。この反射波を検出することで、火星の内部にあるさまざまな領域と、それらのサイズを明らかにすることができます。

惑星の内部構造を読み取ることは、その惑星の形成や進化を解明していく上でとても有用なことです。InSightはこれまでに、火星に大きなコア(核)、薄いマントル、さらに火星の地表と異なる組成を持つ地殻の存在を示唆しています。このデータは、岩石惑星初期の生命居住可能性や、岩石惑星がたどる可能性のある経路を洗い出すのに不可欠な、火星の進化モデルを構築するために役立てられます。

火星の進化史を理解するという観点は、火星衛星フォボスのサンプルを2029年に地球へと届ける、JAXA火星衛星探査計画(MMX)にとってもとりわけ重要です。フォボスで採取したサンプルには、(1) 火星衛星そのものの形成過程の情報、そして、火星本体から放出された粒子が近くを公転するフォボスに降り積もってきたことから (2) 火星本体表面の進化、の両方の情報が含まれます。どちらも火星がどのように進化してきたかの情報を、単純ではない形ではありますが、提供します。

内部構造を読み取ることが惑星の歴史を解明するための鍵であるとして、ほかの天体の内部構造を読みとることへの見込みはどうなのでしょうか?

地震波を利用し、惑星内部の領域と境界を把握することが可能。(クリックで拡大)(C. Bickel / Science)

白石 浩章 助教(中央左)。前に見えるのはNASAのInSightとJAXAの地震計。

InSightチームと同様、白石浩章助教は地震計に取り組んでいます。この地震計が搭載される探査機の行き先は火星ではなく土星の衛星タイタン。NASAのDragonflyミッションに搭載されることになっています。今回のInSightの成果に関して、白石はこのように話します。

地球以外の惑星の内部構造を地震学的手法で明らかにした歴史的な成果です。将来の惑星探査において、内部構造探査は次々と実現していくことでしょう。同じ観測手法は内部海を持つとされる巨大な氷衛星にも応用することができます。土星衛星タイタンもその1つで、NASAのDragonflyミッションに向けて開発しているJAXAの地震計が重要な役割を担います。

白石 浩章(太陽系科学研究系)

InSightの成功は、将来得られることになるタイタンのデータへの期待を高める一方で、Dragonflyに搭載される地震計は、氷衛星のおそるべき低温と闘わなければなりません

火星圏探査に話を戻すと、梁玉莹博士は、火星衛星の内部構造を測定するまた違ったアイデアを持っています。火星衛星探査計画(MMX)では、探査機自体の軌道がフォボスの重力からどのように影響を受けているかを読み取り、逆に、そのデータから衛星の内部構造を推測することを計画しています。

私たちは天体の表面をひっかいて物質採取するだけでなく、周回する探査機の軌道に関する精密データから天体内部の情報を読み取ることの準備が出来ています!MMXが2025年に到着したとき、そのデータは衛星フォボスの内部構造を読み取るのに役立つでしょう。MMXとともに探査の旅を楽しみましょう!

梁 玉莹 (太陽系科学研究系 JSPSポスドク研究員)

こういったアイデアに加え、JAXAはこれまでに開発されてきた新しい広帯域地震計のテクノロジーを活用し、月面で複数の地震計を展開することを計画しています。これらは、私たちが惑星探査の新しい段階に踏み出し、惑星の核心まで理解することを可能にするでしょう。


梁 玉莹 博士

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


“海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク:
InSight mission news (InSight ミッションのニュース記事、英文)
火星衛星探査計画 (MMX)
Cosmos過去の記事「Measuring the waves through Titan」(英文)