海外の宇宙ニュース:プラネタリ・ディフェンスはなぜ重要か
天体の衝突があったというような言い伝えは、世界のいろいろなところにあるようです。その真偽というのはなかなか判断するのが難しいですが、天体が地球に衝突するということや、衝突すると大きな被害が生じるということは事実です。
-吉川 真 (はやぶさ2 ミッションマネージャ)
小惑星が地球に衝突するという脅威は、最近のニュースの見出しを見ても、それに伴うとてつもない高温状態が作り出す災厄という観点からも、「ホットな」話題と言えます。先月、この話題に関連する学術雑誌論文がいくつか出版されました:1908年にあったツングースカ川沿い東シベリアでの大爆発が地球の大気圏を小惑星がかすめただけで引き起こされた可能性について。古代都市の壊滅についての聖書の記載が、実在した隕石の爆発によるものである可能性について。接近する小惑星を破壊することによって将来起こりうる災害をどのように回避できるか、というテーマについて。
地球への衝突による災害を防ぐ研究は「スペースガード」や「プラネタリ・ディフェンス」と呼ばれる分野である、と吉川真はやぶさ2ミッションマネージャは説明します。これはJAXAが参加している分野であり、宇宙科学ミッションと地上望遠鏡を駆使して、潜在的な脅威やそれらへの防御手法を研究しています。
最近では、2013年にロシアに落ちたチェリャビンスク隕石によってかなりの被害が生じましたし、1908年のツングースカ大爆発では、天体の衝突によって2000平方キロメートルに渡って樹木がなぎ倒されたと言われています。これらの被害をもたらした天体の大きさは、チェリャビンスク隕石が17mくらい、ツングースカ大爆発の方は60〜100mと推定されており、小さな天体でも大きな被害を生じることが分かります。
このように天体の地球衝突は非常に大きな自然災害になりますが、地球に衝突しうる天体を早めに発見すれば、完全に予測可能です。そこで、1990年代にはスペースガードという活動(現在では、プラネタリーディフェンスとも呼ばれています)が本格化して、地球に接近する天体(NEO:Near Earth Object)がどんどん発見されています。現時点で、NEOは27000個ほど見つかっており、これらのNEOは軌道が分かっていますから、計算をすることによって地球衝突の可能性も確認されています。実際、現在把握されているNEOは近い未来に地球には衝突しないのですが、発見されていないものについては全く分かりませんから、未発見のNEOを探す活動が続いているのです。
そのために、小惑星全体の発見個数は、現在113万個を超えています。JAXAでも、NEOを発見する技術の開発や、実際の観測活動を行っています。
-吉川 真
岡田達明准教授は欧州宇宙機関(ESA)主導のミッション、二重小惑星探査計画Heraのメンバーです。NASAのDARTミッションとともに、Heraは小惑星の軌道を逸らす実験の一部であり、その目的は、地球を守るためのプログラムが必要になるかもしれない将来のために有用な経験やデータを得ることです。
小惑星の地球衝突は,地震や津波などの自然災害と同じように、必ずおこる潜在的な脅威です。それを惑星科学の知識と宇宙工学の技術で回避するプラネタリー・ディフェンスの活動が始まっています。
今から100年以内に地球に衝突する可能性のある小惑星のほとんどが直径100mかそれ以下の小さいものばかりなので、探査機を高速でぶつけることによって軌道を少しずらすことができ、地球への衝突を回避することができます。先ずは小さな小惑星の性質をしっかり調べることと、その小さな小惑星に実際に探査機を衝突させる技術を実証することが必要です。
AIDA(Asteroid Impact & Deflection Assessment)は、NASAのDART計画とESAのHera計画を連携させた国際共同のプラネタリ・ディフェンス計画です。DARTは今年11月に打ち上げて、2022年に小惑星Didymosの衛星Dimorphosに衝突させ、生じる軌道の変化を分離した子機と地上観測で確認する計画です。Heraは2024年に打ち上げて、事後に両小惑星にランデブーしてDARTの衝突による影響や小惑星の性質を調べる計画です。
小惑星探査は日本が世界を先導してきた得意分野であり、「はやぶさ2」で実績のある熱赤外カメラをHeraに搭載し、衝突現象や地形、熱物性などの小惑星科学の研究で大いに貢献する予定です。
まさに日米欧連携による本格的なプラネタリ・ディフェンスが始動します。
-岡田 達明(太陽系科学研究系 准教授)
2020年12月、「はやぶさ2」探査機は小惑星リュウグウの物質が入ったカプセルを地球に届けた後、自身は軌道変更して惑星間空間へと飛び出しました。現在探査機は拡張ミッションを続けていて、1998 KY26という小惑星にランデブーを計画しています。はやぶさ2の航法誘導制御を担当する三桝裕也博士は、このような小惑星が将来、地球にとって脅威になる可能性があるものの、こういった天体について分かっていることはとても少ないと説明します。
2020年12月に地球帰還したはやぶさ2は、拡張ミッションを開始し、現在、余剰燃料を利用して、次の目標天体である1998 KY26へ向けて航行中です。この1998 KY26という天体は、直径30m程度の非常に小さな小惑星で、さらに10分で1周という驚異的な自転速度で回転しています。このような小惑星は、100~1000年に1度の頻度で地球に衝突し、大きな被害を与える可能性のある天体ですが、地上からの観測では詳細なことは分かりませんし、これまで探査機も接近したことがないので、その素性は明らかになっていません。そのため、はやぶさ2がこのような未知の小惑星にランデブーし、物理特性を明らかにしたり、近傍での運用方法を確立することによって、このような天体に対する知見を深め、地球衝突に対する対策を立てる上での有益な知識を獲得することができると考えています。
-三桝 裕也(はやぶさ2航法誘導制御担当)
はやぶさ2は小惑星2001 CC21にフライバイしたあと、2031年に1998 KY26に到着することになっています。これらにおいて実施する観測により、地球への潜在的な脅威について調査し小天体の素性を調べることから、いつか私たちの星を救うために必要となるかもしれない時のため、衝突してくる小天体の軌道を逸らす方法を構築していく上で必要な知見を得ることができます。
(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)
“海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。
関連リンク: