海外の宇宙ニュース: NASAのジュノー、ガニメデを撮影
6月7日、NASAの木星探査機「ジュノー」が、木星の衛星ガニメデに接近してその姿を2枚の画像にとらえました。太陽系で最も大きい衛星であるガニメデは、磁場を生み出すことのできる珍しい衛星であること、また生命が存在できる条件を備えている可能性があることなどから私たち研究者を魅了しています。日本はJUICEというミッションで、欧州宇宙機関(ESA)とともにガニメデやその近くの氷の衛星を探査することになっています。
Galileo衛星で観測されて以来のガニメデ表面画像を見て、JUICEがガニメデを訪れる約10年後を想像してワクワクしました。今回のJUNOのガニメデフライバイは、ガニメデの新たな姿を明らかにすると思います。そしてJUICEに託される、新たな謎が出てくるに違いありません。
齋藤 義文(JUICE- ISAS プロジェクトマネージャ)
木星氷衛星探査計画( JUpiter ICy moons Explorer、JUICE) はESA主導のミッションで、ガニメデおよび木星のほかの2つの氷の衛星であるエウロパとカリストを詳しく探査します。このミッションは、ESAとJAXAがそれぞれ2機の衛星を同時に水星周回へ送り込む「国際水星探査計画 BepiColombo」に続いて、両機関の大規模な協力としては第二弾となるミッションです。
ESAの大規模ミッションであるJUICEでは、11もの観測機器が搭載され、外部太陽系の領域(太陽系内の木星から外側)へ先端技術を搭載した観測機器を送り込むことになります。ISASではこのうち3つの機器の開発を行い、4つ目は情報通信研究機構(NICT)から提供されることになっています。さらにISASの研究者はほかの2つの機器開発にも携わっています。これはJAXAだけではなし得ることのできないミッションで、国際協力によって達成することのできる幅広い可能性を示してくれます。
このガニメデは太陽系最大の衛星で、表面が氷に覆われた「氷衛星」です。しかし、その氷の層の下には、液体の海がある可能性が示唆されています。私たちは欧州宇宙機関(ESA)が主導するJUICEミッションに搭載するガニメデレーザ高度計(GALA)を、国際協力によって開発しています。GALAはガニメデ周回軌道上からガニメデの潮汐応答を測ることで、外部からは見えない地下海や内部構造を調べます。氷衛星の内部構造を調べることは、宇宙生物学・宇宙生命探査に向けた重要なステップになると考えています。
木星には氷で覆われた3つの大きな衛星がありますが、その氷の下には液体の海があると考えられています。衛星は、わずかに楕円形の公転軌道を周っているため、木星からの距離が変化します。これにより木星から受ける重力の変化が生じ、よって衛星は歪み、熱を発生させています。この「潮汐加熱」という現象が、衛星の内部にあると考えられている海を凍らせることなく水の状態に保っていると考えられています。
液体の水は生命にとって欠かせない重要な成分です。そしてもう1つ重要なものは、水素、メタン、有機分子などの生命のエネルギー源となるものです。氷の衛星では、表面に生成された、または到達した有機物は氷という蓋を超えてその下にある海に到達せねばなりません。JUICEは、それが可能かどうか、また、大陸のない世界で生命が存在できるのかどうかを探査することになっています。
「海洋天体に、生命は存在するのか、しないのか?」その答えは、地球がなぜ生命の満ち溢れる天体となりえたのか?の答えへとつながると考えられます。Junoの撮影した美しい氷天体の内部はどのような環境なのか?生命を支えるエネルギーは存在するのか?JUICEでの探査で明らかになることを楽しみにしています。
ガニメデはJUICEの主な探査対象です。ほかの木星の衛星や、火星や金星などとも違って、ガニメデは衛星自体に磁場を発生させています。固体表面を持ち固有磁場を生み出すというのは、知られている限りでは地球と水星に次ぐ第三の世界です。ガニメデの磁場がそれよりはるかに強い木星の磁場と、どのように相互作用しているかを調べることは、惑星や衛星の表面が磁場によって守られる仕組みなどを研究しているISASチームにとってとても重要なことです。さらに、水星がその短い公転軌道のために太陽風の高エネルギー粒子の影響を大きく受けていることが、プロキシマケンタウリbなど主星の近くを公転する太陽系外惑星の状態と類似しているため、BepiColombo(ベピコロンボ)はこの”パズル”を完成させるためのもう1つのピースとなりえます。
またJUICEはガニメデのほかに、エウロパとカリストも探査することになっています。カリストは、ガニメデよりも木星から遠い位置にあり、潮汐加熱の影響を受けることが考えにくいため、ほかの氷衛星とは異なる地質環境になっているはずです。深いクレーターにより刻まれた表面は、衛星としての最初の形成過程の解明につながる古い地表である可能性もありますし、または有機物がカリストの内部まで到達できなかったということを意味するかもしれません。ですので、カリストがもし本当に内部に海を持つとしても、生命を維持している可能性はとても低いのです。一方、これはより木星に近い位置に存在するエウロパには当てはまることではありません。エウロパの表面には亀裂が見られる部分があり、下に隠れた海と物質交換を行えている可能性もあります。地球のプレートテクトニクスによる物質循環が生命の存在に大きな役割を果たしていると考えられます。エウロパも活動的であり氷地殻は同じ役割を果たすのでしょうか。この観点から、JUICEはこの亀裂を探査します。また、エウロパはNASAのミッションの探査の対象にもなっています。Europa Clipper (エウロパクリッパー) は、木星の周回軌道からエウロパの地表をマッピングし、またレーダーを使用して内部の構造を調べることになっています。
JUICEは2022年の打ち上げを目指していて、約7年半後に木星に到着し、3年半をその衛星の探査に費やすことになっています。
(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)
“海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。
関連リンク: