海外の宇宙ニュース:M型矮星を周回する惑星の環境を解明する

太陽観測衛星「ひので」によりとらえられた太陽フレア (JAXA/国立天文台)

2016年、天文学者たちはおおっと思わせるような発表を行いました。太陽から最も近い恒星であるプロキシマケンタウリを周回している小さな惑星が発見されたのです。惑星の公転の周期はわずか11.2日ですが、太陽に比べてプロキシマケンタウリの方がサイズが小さいことと、それに応じて光度が低いことから、主星(プロキシマケンタウリ)にとても近いこの位置でこそ地球が受けているのと同程度の放射による熱入力を受けている、つまり、この惑星はハビタブルゾーン(生命居住可能領域)に存在していることを意味しました。その点はよいとして、地球からもっとも近いこの惑星の生命居住可能性に関して、他の懸念はないのでしょうか?

最近のプロキシマケンタウリの観測では、その周りを公転している惑星表面の居心地の良さに懸念を投げかけています。この星はとても活発で、太陽よりもはるかに頻度の高い恒星フレアを起こしています。フレアとは、恒星表面で強い爆発によりエネルギーが放出される、急激な増光現象のことです。エネルギーは恒星の周囲へ放出されるため、近くを周回している惑星は高いレベルで放射線を浴びることになり、その表面の環境は生命にとって厳しいものとなる可能性があります。

さらに、これはプロキシマケンタウリが特殊な星だという問題ではありません。プロキシマケンタウリは「M型矮星」と呼ばれる星で、太陽よりも小さく光度も低い型の星です。M型矮星は私たちのいる銀河系で最も多く存在する恒星タイプであるだけでなく、このような矮星を公転している地球サイズの惑星は見つけやすいため、M型矮星を公転する惑星は将来的なアストロバイオロジー(宇宙生物学、宇宙生命科学)の研究対象の有力な候補となりえます。ですが、私たちはどのようにしてM型矮星という活発な恒星の周りの惑星の環境を理解することができるのでしょうか?この疑問にも通じる問題意識から実行される3つのミッションを、ISASの研究者に紹介してもらいましょう。

太陽系から最も近いお隣に位置する恒星プロキシマケンタウリのような、赤色矮星の近傍に多くの地球型惑星が見つかっていますが、そうした惑星の表層環境がどれだけ主星の影響を受けているかはまだ謎に包まれています。我々はまず身近な太陽系で最も強い太陽風にさらされている惑星、水星の磁場が太陽風に対してどう振舞っているかをベピコロンボ計画の水星磁気圏探査機「みお」によって直接調べることで、そうした系外惑星で起きていることを確認しようとしています。

村上 豪(「ベピコロンボ」プロジェクトサイエンティスト、助教)

ベピコロンボ(BepiColombo)は、JAXAと欧州宇宙機関(ESA)との共同ミッションで、現在水星に向かっている途中です。このミッションでは2機の探査機を水星を周回する軌道へ送り込みますが、JAXAの探査機「みお」は、太陽の活動がどのように太陽系再内縁の惑星・水星の磁場環境へ影響しているかを観測します。

村上 豪 助教
鳥海 森 博士

一方、Solar-C は恒星の活動をより理解するため太陽を観測し、私たちの星が地球や太陽系の他の惑星にどのような影響を及ぼしているかを調べるプロジェクトです。

2020年代中頃の打上げを目指すSolar-C(EUVST)は、これまでにない高感度・高分解能の紫外線分光観測によって、太陽フレアが発生するメカニズムの解明に挑みます。このような知見は、プロキシマケンタウリやさまざまな恒星において、強烈なフレア活動がどのように生じているのか理解するカギになると期待されます。

鳥海  (太陽系科学研究系、国際トップヤングフェロー)

こういった主星の活動に対して地球型惑星(主に岩石や金属などから構成される岩石惑星)が持つ、最も良い防御法の一つと考えられているものが磁場です。地球の表面は、地球自体が持つ磁場(固有磁場)によって太陽風から保護されています。太陽から流れ出た高いエネルギーを持つ粒子は、地球の磁力線にとらえられて極点に向かいます。粒子が地球の大気にぶつかる場所で、私たちはオーロラという見事な天体ショーを見ることができます。普段の太陽風や、さらに活発で危険な太陽の活動に対し、地球の固有磁場がどのように対応しているかを理解することが「あらせ」の目的です。

地球で安全な生命活動が可能な理由の一つに、固有磁場の存在が挙げられます。ジオスペース探査衛星「あらせ」は、太陽活動に伴う地球磁気圏の高エネルギープラズマの振る舞いを調べ、人類の安全な生活と宇宙利用を支えています。もしもプロキシマbに固有磁場があれば、プロキシマケンタウリの強烈なフレアによって、地球とはスケールが大きく異なるプラズマ物理現象が起きていることでしょう。将来の系外探査で、「あらせ」のように宇宙イチ過酷な環境を調査する衛星を送り込むことができれば…と思うとワクワクします。

松田 昇也 (太陽系科学研究系 特任助教)
松田 昇也 特任助教

「みお」「Solar-C」「あらせ」によって太陽系内での様々な状況を研究することが、天の川銀河系にあまねく存在する地球型惑星の表層環境を理解していく上でのステップとなると考えます。

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


“海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。