「探探探査」!ーISASバンドによるMVメイキングー

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2021年の初め、太陽系科学研究系の村上豪助教は新たな挑戦の準備に取り掛かりました。欧州宇宙機関(ESA)との共同ミッション「BepiColombo」で現在水星に向かって航行している日本の水星磁気圏探査機「みお」のプロジェクトサイエンティストとして、村上は日々重要な任務に追われていました。しかし次の2か月間に計画していた新たなプロジェクトは少し今までと異なっていました。

村上豪 助教

「今年の特別公開の総監督をやってくれないかと依頼されたのです。」村上は振り返ります。「今回はすべてオンラインとなることから、大きな仕事になることがわかっていました。」

宇宙科学探査交流棟は普段から見学をすることが出来ますが(*)、宇宙科学研究所相模原キャンパスの毎年恒例の特別公開は、研究室への扉が文字通りに開かれ、ISASの研究者が来場者の方へ直接、自身の研究を紹介することの出来る機会です。例年、このイベントは2日間で延べ13,000人を超える方が訪れ、多くの方が心待ちにしているものでした。しかし新型コロナウイルスの蔓延により、2020年度はオンラインで行う必要がありました。

プロジェクトチームなどによる講演や、ウェブカメラを利用した宇宙科学研究所内のライブバーチャルツアーに加え、村上自身には「若手メンバーの自由な発想で創作してよい」という1時間の枠が与えられました。NASAESAが演奏したパロディ動画にかねてから触発されていた村上はISASとしてこれまでのJAXAにないようなパロディ動画を作成することを提案しました。

久保 勇貴 (博士課程学生)

「ISASの存在や取り組みを広く皆さんに知ってもらうには・・と話し合った末、『前前前世』のカバーをすることが決まりました。」村上はこのように述べます。「そしてMVタイトルは『探探探査』!」

「前前前世」は日本のロックバンドRADWIMPSの楽曲で、長編アニメーション映画「君の名は。」の挿入曲となったことで世界中に知られることとなりました。ISASならではのパロディ・バージョンとして「探探探査」とタイトルを付けました。

「この曲は世界的に有名ですし、メンバーにファンも多く、みんな納得の選曲でした。」

尾崎 直哉 特任助教

この ”プロジェクト” には約10名の研究者が参加し、村上助教と宇宙機応用工学研究系に所属する久保勇貴(博士課程学生)、尾崎直哉特任助教の3名がRADWIMPSのボーカル、ギター、ベースのパートを担いました。ビデオをご覧いただくと分かりますが、はやぶさ2プロジェクトマネージャの津田雄一など、他にも多くのISASのメンバーが参加しています。

この新生ISASバンドは、歌詞はそのままに、もともと歌詞中にあった宇宙に関連するテーマを活かしつつISASでの研究にハイライトを当てることにしました。ビデオには、RADWIMPSのミュージックビデオ(MV)の同じシーンからのパロディ、「君の名は。」からのパロディ、さらに歌詞とISASの活動を関連付けたものが織り交ぜられています。

「れいめい」を運用中の研究管理棟のアンテナ

MVのオープニングではISAS(相模原キャンパス)の研究管理棟に沈んでゆく夕日と、正門近くの交差点で信号が変わるところから始まります。両方とも「君の名は。」のパロディです。建物の屋上に設置されたアンテナが動くシーンは小型高機能科学衛星「れいめい」の実際の運用時に撮影されました。

曲の冒頭、RADWIMPSのMVでメンバーが草原で演奏しているシーンは、村上、久保、尾崎の3名が相模原キャンパスの中庭の芝生で再現しました。

「尾崎くんと久保くんは本当にギターが弾けるんですが、実は僕はエアベースなのです」村上はこう認めます。

宇宙科学研究所近くの交差点

また久保はメインボーカルを務めていますが、何年もやっていなかったことに再び挑戦することになったと言います。

久保はこのように振り返ります。「これは結構な挑戦でした(笑)。高校生の頃はギターボーカルをやっていたのですが、それ以来だったので!」

歌詞の中で宇宙に関連するテーマとして選んだのは、

「これでもやれるだけ飛ばしてきたんだよ」

イプシロンロケットによる打ち上げシーン

ここから少しのあいだ3人から離れて、まずJAXAのイプシロンロケット(効率化と低コスト化のため固体燃料を使用した打ち上げ用ロケット)の初めての打ち上げシーンを見てみましょう。惑星分光観測衛星「ひさき」はイプシロンロケット試験機により打ち上げられ2013年に地球の周回軌道に入って今も観測を続けています。

「君の髪や瞳だけで胸が痛いよ」

ここでは「瞳」の歌詞に結び付け、2016年に打ち上げられたX線天文衛星「ひとみ」のアニメーションに切り替わっていきます。「ひとみ」は残念ながら短い運用となってしまいましたが、そのミッションを引き継いだX線分光撮像衛星「XRISM」が、今年度の打ち上げを目指しています。

X線天文衛星「ひとみ」

「はるか昔から知る” その声に “生まれて初めて何を言えばいい?」

BepiColombo/水星磁気圏探査機「みお」建設の様子

これは水星に向かっているBepiColomboミッションの長い道のりを彷彿とさせます。まず2001年11月のミッション最初の水星探査ワーキンググループからの提案書が映っています。その後の軌跡が写真で素早く進んでゆく中、ESAの水星表面探査機とともにBepiColomboミッションを担う日本の水星磁気圏探査機「みお」の組み立ての様子も映っています。曲のサビ直前では、太陽系の最も内側の惑星への7年にわたる旅を始めたまさにその日、2018年の記念すべき打ち上げの画像も見ることが出来ます。

そしてBepiColomboのあと、歌詞は私たちをすべての始まりに連れ戻します。

「むしろ0からまた宇宙をはじめてみようか」

ここで現れるのは将来のミッションで、宇宙の始まり(インフレーション期)に生成された原子重力波の探索を行うLiteBIRDのイメージです。

宇宙の創造の探査からつづいては、人間による探査の場面です。次はRADWIMPSのMVで一人の武士が竹藪のなかを歩いているスローモーションのシーンのパロディですが、ISASバージョンでは久保が宇宙服の衣装を着て、相模原キャンパスにある宇宙探査フィールドを歩く様子を同じくスローで表しています。この広い空間は、月や他の天体の地表を模擬した砂が大量に敷き詰められていて、照明をコントロールすることでさまざまな惑星上での太陽光の当たり方をシミュレーションすることもできます。この設備は、新しいローバーの設計テストには最適な場所です。

「相模原キャンパスでも最もインスタ映えする絶景スポットの一つです」村上はこのように熱く語ります。「ちなみにこの宇宙服の衣装は、『ひさき』のメンバーみんなで日清焼きそばU.F.O.の懸賞に応募して当てました!」

インフレーション宇宙を検証するLiteBIRDのイメージ

宇宙科学の分野にいると、一体何が役に立つか全く予測もできませんね。

そのあと、歌詞はこう続きます。

「あかり」がとらえた
全天サーベイ

「何億 何光年分”の物語を語りにきたんだよ 」

ここでは地球からズームアウトして行ったあとに、赤外線天文衛星「あかり」が観測した全天サーベイの画像を見ることが出来ます。そこに重ねる歌詞は以下の通りです。

「けどいざその姿 この目に映すと」

「あかり」は68.5cmの宇宙望遠鏡で、熱輻射を抑え赤外線の波長で観測することができるようにするため、観測時6K(-267℃) という極低温まで冷却されました。「あかり」の目的は銀河、恒星、惑星の形成過程を解明することで、2006年に打ち上げられ、2011年にすべての運用を終了しました。

「君の名は。」では手のひらに名前を書くシーンがありますが、そのパロディとしてISASで現在運用中の「ひさき」「あらせ」「れいめい」「はやぶさ2」「IKAROS」「あかつき」「GEOTAIL」「ひので」「みお」が登場し、最後は映画と同様「すきだ」で締めくくります。

楽器はアリアン5型、HII-A、そしてイプシロン!

次に3人の演奏シーンに戻ると、楽器がロケットの切り抜きになっていますね!村上はBepiColomboの打ち上げに使用されたESAのアリアン5型ロケット、久保ははやぶさ2など多くを打ち上げたJAXAのHII-Aロケット、そして尾崎はイプシロンロケットをかき鳴らしています。画面が切り替わり、次は真空チャンバーの前です。この真空チャンバーとは、「ひさき」では紫外線分光器のキャリブレーションに使われ、さらにロシア主導のWSO-UV(国際紫外線天文衛星)に搭載される、トランジット観測を目指す紫外線分光器UVSPEX(系外惑星分光観測装置)に向けた要素開発でも使用されています。シーンが変わると3人の衣装や楽器が変わっているのも見どころですね。

「革命前夜の僕らを 誰が止めるというんだろう」

真空チャンバーの前で

「ここは若手研究者の打ち合わせの写真を入れました。」村上は説明します。「このシーンはISASで革命を起こすぞ!という我々の決意を表現していて特に好きです。」

撮影に関しては休憩時間を利用して直接行ったほか、感染症対策のためにISASでも勤務形態が変わったことから、リモートでも多くの研究者が登場しています。感染状況の変化は、このMV撮影に関しても多くの変更を余儀なくされました。

ISAS 若手研究者の打ち合わせ

「緊急事態宣言がでたことでいろいろな計画を変え、多くをZoomで行うことにしました。」村上はこのように振り返ります。「楽器のレコーディングはそれぞれが自宅で行い、ボーカルとコーラスのみスタジオで録りました。」

MV中ではメンバーがそれぞれパソコンに向かって演奏しているところや、赤ちゃんの横で演奏するシーンも見ることが出来ます!音源は久保と尾崎がミックスし、村上は動画の編集作業を担当しました。

「自分の声を何時間も聞かなければならなくて・・」久保はこのように言います。「でも幸い、尾崎さんは軌道の魔術師であるだけではなく音楽の魔術師でもあるので、かなり助けられました。」

コロナ禍でのリモート演奏

RADWIMPSのMV同様、ISASバージョンでも3分を過ぎたあたりから始まる ”Wow” & 手拍子のパートもリモートで再現しました。これをバックに、3つのミッションの成功の様子を見ることが出来ます。一つ目は金星探査機「あかつき」の金星軌道への投入成功、次に「はやぶさ2」の小惑星リュウグウへの2回目のタッチダウン直後の管制室の様子、最後に「みお」打ち上げ後の伸展物ロック解除運用の成功の様子です。これは「みお」が水星に着いてから、マストとアンテナを広げることが出来ることを意味しています。

そして曲はエンディングに近づいていきます。

オーストラリアの砂漠に着地した「はやぶさ2」回収カプセルとパラシュート

「君が全然全部なくなってチリヂリになったって 」

ここでは、小惑星サンプルリターンを世界で初めて成功させた後、大気圏に突入して燃え尽き流れ星になる「はやぶさ」初号機の最後の姿が見られます。これに続くのは「はやぶさ2」の再突入カプセルがオーストラリアの砂漠に向かって行く動画に、次の歌詞を重ねています:

「もう迷わないまた一から探し始めるさ」

最後のシーンもRADWIMPSのMVのパロディで、ISASバージョンでは3人の宇宙飛行士が月面を模した宇宙探査フィールドに立っているシーンで締めくくっています。

宇宙科学探査交流棟「はやぶさ2」模型の前で

「この3人の宇宙飛行士ですか…ISAS内にある生協で買いました!」村上は意外にもこう教えてくれました。

さてこのISASバンド、この後はどうなるのでしょうか。

「仕事でうまくやるためには、楽しむことが何よりだと考えています!」久保はこのように話します。「『探探探査』のような楽しい企画も、私たちの宇宙探査を後押してくれると思います。」

「このプロジェクトは最初の一歩です。今後もお楽しみに!」

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


[*] 宇宙科学探査交流棟の見学には現在予約が必要です。また今後、感染の状況等により予告なく変更することがあります。開館情報につきましてはからご確認ください。