海外の宇宙ニュース:新たな地球トロヤ群小惑星が確認される

2020年の終わり、地球近傍小惑星「2020 XL5」が発見されました。先月発表された論文では、軌道を解析した結果から、この小惑星が実は地球のトロヤ群小惑星(太陽の周りを地球と同じ周期で回る小惑星)であるということが明らかにされました。

トロヤ群小惑星とは、4番目と5番目の「ラグランジュ点」にある小惑星のことです。「ラグランジュ点」とは、惑星の重力と太陽からの重力が釣り合う位置のことを言います。ここにある小さい天体は惑星や太陽の方向に引きずられることなくそこに留まることができ、惑星と同じ周期で太陽のまわりを公転することが出来るのです。

地球―太陽のラグランジュ点を示した図。惑星のラグランジュ点とは、太陽や惑星の重力がバランスしており、それぞれに引きずられることなく物体が安定して留まることが出来る場所のこと。4番目(L4)、5番目(L5)のラグランジュ点にある小惑星は「トロヤ群」と呼ばれている (NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva Acknowledgment: M. Zamani (NSF’s NOIRLab))

木星では、その巨大な惑星のラグランジュ点には膨大な数の小惑星が集まっています。木星トロヤ群小惑星は巨大惑星を形成した物質の残りと考えられていて、昨年打ち上げられたNASAのLUCYミッションが探査することになっています。

2020 XL5が発見されるまで、地球のトロヤ群小惑星は一つしか発見されていませんでした。「はやぶさ2」やNASAのOSIRIS-Rexが地球のラグランジュ点を通過するときに探査を試みましたが、どちらも新発見には至りませんでした。津田雄一はやぶさ2プロジェクトマネージャは、探査する領域がとても広大であることが困難な点の一つである、と指摘します。

津田雄一 教授

太陽と地球がつくるラグランジュ点の一つ「L4」点に、新しい小惑星が発見されたそうです。「2020 XL5」という小惑星で、L4点まわりに安定的に留まっている小惑星(=トロヤ群小惑星と呼ばれる)であることが判ったそうです。色はリュウグウと同じ仲間のC型,直径は1.2kmあるようなので、リュウグウよりひとまわり大きいそう。L4点やL5点は、地球から見ると夜明けや夕方の方角にあり観測しづらいので、まだまだ未発見の大物天体がたくさんあるかもしれませんね。

たまたまですが、はやぶさ2は現在L4点を通過中です。ただ、同じL4領域と言えども広大な宇宙、この小惑星とは4000万km以上離れているので、はやぶさ2から観測するのは難しそうです。ちなみに、はやぶさ2は2017年にもう一つのラグランジュ点「L5点」通過時に、搭載カメラを使って、小惑星を探索しました。残念ながらこの時は収穫ゼロ。でも、L4点、L5点は、太陽系スケールで見ると地球の庭先。近場に宝物があるかもしれないと思うと、探したくなりますよね!

ー津田雄一(はやぶさ2プロジェクトマネージャ

今回の新たなトロヤ群小惑星の発見は、地球の近傍にこういった小惑星がもっとあるのではないかという可能性を示唆します。はやぶさ2の吉川真ミッションマネージャは、トロヤ群小惑星や地球に近づく軌道で公転する地球近傍小惑星は、今後の観測や探査の良い候補になるだろうと話します。

小惑星2020 XL5が地球のトロヤ群小惑星だというと、太陽−地球−2020 XL5の配置が正三角形になると思う人が多いかもしれません。2020 XL5の場合には、その軌道がかなりつぶれた楕円形(軌道離心率が約0.4)なので、太陽−地球−2020 XL5の配置は1公転(=1年)の間に大きく変化します。ただし、地球軌道上で前方にあるラグランジュ点L4のまわりを大きく動くような軌道になっていますので、地球トロヤ群小惑星と見なされたのでしょう。

2020 XL5は、小惑星2010 TK7に続いて2つめの地球トロヤ群と報道されていますが、2020 XL5の重要な特徴は、その公転周期が地球と同じ1年であるということです。実は、そのような小惑星はたくさん発見されています。1986年に発見された小惑星クルースン(Cruithne)もその1つで、2020 XL5と似たような動きをしています。2016年に発見された2016 HO3(ハワイ語で“振動する天体”を意味する amo`oalewaという名前が付けられています)は、現在は地球の周りを大きく周回するような軌道にあります。このような小惑星は力学的には不安定なので、ずっと現在の軌道にいるわけではなくて、数百年、数千年という時間では、また別の軌道に変わってしまいます。ですが、当面の間は現在の軌道にいて地球との位置関係が規則的なものになっていますので、何かに利用できるかもしれないですね。

吉川真(はやぶさ2ミッションマネージャ)

吉川真 准教授

トロヤ群小惑星に対する興味は、それらが地球に近接しているということ以外の点からも高いものです。太陽系科学研究系の兵頭龍樹は、「はやぶさ」と「はやぶさ2」はそれぞれS型小惑星とC型小惑星のサンプルを持ち帰ったが、地球や惑星の形成について理解するためには他の型の小惑星の探査も必要である、と話します。

兵頭龍樹 博士

新たな地球トロヤの存在が確定された。まだまだ見つかる期待が膨む。ただし、これまで発見された2つの地球トロヤは、他の場所からやってきて地球の重力に一時的に捕まっているものだと、軌道から考えられる。


話変わって、我々はたくさんの隕石を地球上で見つけているが、化学的かつ同位体的に地球岩石と一致するものを見つけられていない(言い換えると我々は、”岩石惑星”である地球の材料物質をまだ知らない)。もし地球の誕生時から地球トロヤとして残っているものが見つかれば、ぜひ探査してみたい。なぜなら、それは「46億年前の地球の”原材料”の残り」かもしれないからだ。

ちなみに、今のところ地球岩石に(同位体的に)一番似ていると言われている隕石は、エンスタタイト・コンドライトである。そしてその隕石は、人類未到達のE型小惑星から来たのではないかと言われている。S型(はやぶさ)、C型(はやぶさ2)に続き、E型もJAXAが積極的に探査すべきではないか。

兵頭龍樹(太陽系科学研究系 ITYF

こういった科学的興味をそそる新たな天体が新たに発見されることは決して珍しいことではなく、将来的にはもっと増えて行くでしょう。宇宙機応用工学研究系の尾崎直哉特任助教は、取り逃してしまうのは勿体無さ過ぎる「貴重な出会い」があったときに向けての準備を万端にすべく、ミッション設計に取り組んでいます。

JAXAの深宇宙探査実証探査機DESTINY+ が小惑星Phaethon(フェートン)に近接撮像観測を成功させた後、さらに複数の小天体の近接観測を実施する拡張ミッションというものを考えたい。図は、それを可能にする軌道を検討した結果。

2個目の地球のトロヤ群小惑星が見つかりましたね!
実は小天体自体はじゃんじゃん見つかっていて,今年に入ってから既に400個以上、これまでに100万個以上の小天体が発見されています(IAU Minor Planet Center調べ)。

なので、きっと今後も面白い小天体が見つかると予想しています。

そんな面白い小天体が見つかった時に、いち早く探査しに行きたいですよね?ね?兵頭さん?吉川先生?

未だ見つかっていない小天体が見つかったら直ぐに探査しに行くような待ち受け型の探査ミッションのアイディアを現在いくつか検討しています。

一つは船瀬先生から後ほど紹介がある太陽と地球のL1/L2ラグランジュ点(L4とは別のラグランジュ点)に待機するComet Interceptorミッションのようなアプローチです。

他にもDESTINY+ミッションの拡張ミッションで考えているような小惑星フライバイと地球スイングバイを繰り返しながら,待機するアプローチも考えられます(図を参照)。
将来的には、10機以上の探査機を地球近傍に配置しておいて、数ヶ月に1個の頻度で小天体をフライバイ観測し、面白い小天体が見つかったら(もしかしたら、それは恒星間天体かも)そっちを探査しに行く・・・そんな深宇宙コンステレーション探査ができると良いなぁと妄想しています。

ちなみに、地球トロヤ群だったら、フライバイ探査ではなく、ランデブー探査ができるかもしれない!津田先生らとワクワクしながら話していました。

ー尾崎直哉(宇宙機応用工学研究系 特任助教)

尾崎直哉 特任助教

学際科学研究系の船瀬龍教授は、欧州宇宙機関(ESA)主導のComet Interceptor というミッションの計画に携わっています。船瀬は、このタイプのミッションを日本がさらに発展させれば将来的には全く新しいクラスの天体を探査することが出来るのではと考えています。

船瀬龍 教授

尾崎さん:はい、紹介してもらったように、「待ち受け型」という新しいスタイルの探査ミッションとしてESA―JAXA共同でComet Interceptorという計画を検討しています。太陽―地球系のラグランジュ点(L2点)に探査機を待機させておいて、地上観測で恒星間天体か長周期彗星が見つかったら、L2点を出発して天体にencounterしにいくミッションです。人類として初めてこのような天体を間近に観測するミッションということで、相当インパクトの高いミッションだと思います。

ただ、この計画、日本主導のものではなくESAが主導しているもので、日本の担当は天体を多角的にフライバイ観測するための複数の探査機のうちの1機(子機)を提供することだけです(だけ、といっても結構大変な開発になるのですが、その辺の話はまた別の機会に...)。日本としては、やっぱりこういうチャレンジングでワクワクする探査ミッションを自力でやれるようにしたいなぁと思いますね...

Comet Interceptorの先には、軌道変換能力の高い親機にComet Interceptorで開発するような観測パッケージを搭載した超小型機を(できれば複数)搭載し、複数機で突発的に飛来する天体を探査しにいけるようにしたいと思っています。この「軌道変換能力」というのが重要なポイントで、軌道変換能力が高いと、フライバイ探査するにしても「面白い天体」を狙い撃ちして探査しにいけたり、interceptしにいける天体の軌道の範囲が拡大できたりします(つまり、より高い確率で恒星間天体を探査できるようになる)。

この部分で、DESTINY+で実証する高性能な軌道変換機の技術が活用できるはずで、DESTINY+とComet Interceptorの先には、日本が自在にこのような「待ち受け型探査」「超多数の天体のフライバイ探査」を実施できる世界が来ると期待しています。

ー船瀬龍(学際科学研究系 教授)

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


”海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク:

はやぶさ2 プロジェクト
深宇宙探査技術実証機DESTINY+
Comet Intercepter (欧州宇宙機関 ウェブページ)