このところ、太陽がとても元気です ─第25活動周期の太陽を見すえて─

ISASの鳥海森准教授は、私たちの地球に最も近く、また重要な意味を持つ恒星である太陽の研究をしています。現在の太陽や、太陽が私たちの地球にとってどんな意味を持つのかー、鳥海准教授がそれらを案内する旅へと連れ出してくれました。


研究者であるにも関わらず、ずいぶんと感覚的なタイトルを付けてしまいました。太陽が「元気」とは、どういう意味でしょうか?このブログでは、2020年代に入り勢いを増しつつある太陽活動の様子と、Solar-C (EUVST)などの将来ミッションが今後太陽観測を実現していく意義についてご紹介します。

SDO衛星の観測した2022年5月3月のX1.1クラスフレア。提供:NASA/SDO

太陽の活動現象は、太陽の磁場と深く関係しており、その活動度はおよそ11年の周期で変動を繰り返します。太陽磁場の11年変動に伴って、黒点の出現数が増減するとともに、太陽フレア(太陽表面で起きる強力な爆発現象)の発生数も変化します。その影響は太陽系全体に広がり、地球ではオーロラの発生数なども変化します。太陽活動の変動に伴う、地球やその周辺におけるさまざまな影響を「宇宙天気」と呼びます。今年4月には総務省が、X10クラスという強力なフレアが2週間続く極端宇宙天気現象が発生した場合、携帯電話の不通・広域停電・GPSの精度低下などが起きる可能性を公表し、話題となりました。Xクラスは太陽フレアで最大のカテゴリであり、数字は各クラスにおけるフレアの強さを示します。

太陽の活動周期は黒点数によって定義されます。2019年12月に、太陽は第25活動周期に突入しました。太陽活動の増大に伴い、最近では大型フレアの発生やそれに関連する報道も続いています。いくつかここに挙げてみましょう。

  • 2021年10月28日、第25周期で2件目となるXクラスフレアが発生。太陽面の中心付近(地球と正対する方向)で生じたため地球影響が懸念され、情報通信研究機構(NICT)による情報発信および各メディアで報道が行われた
  • 2022年2月3日に打上げられた49基のスターリンク衛星のうち、40基が大気圏に突入。直前に生じたフレアに伴って地球大気が膨張したことで、衛星の軌道が乱れたためとされる
  • 同3月から4月にかけて、多数のXクラスフレアが発生
  • 同5月3日、X1.1クラスフレアが発生。5月10日、X1.5クラスフレアが発生。

実際に黒点数とフレア発生数の変化を図示してみました。第25周期の活動度が急速に上昇していることが見て取れます。

各太陽活動周期における(上)総黒点数と(下)Cクラス以上のフレア発生数。いずれも月毎の値を13ヶ月移動平均して示している(細線は暫定値)。フレアはX線の最大強度によりX、M、C、B、Aの5段階に分類される。データ提供:NOAA・WDC-SILSO

ここで興味深いのが、過去の活動周期との違いです。1990年代後半から2000年代にかけての第23周期は活発であり、2003年10月のX17クラスフレアに代表される強力なフレアが多数発生しました。最大はX28クラスでしたが、このイベントはX線検出器の測定限界を上回っており、実際にはなんとX45ほどに達していた可能性が指摘されています。反対に、2000年代末から2010年代にかけての第24周期は低調であり、黒点数は過去100年間で最も低い極大を示しました。JAXAの「ひので」衛星(2006年)やNASAのSDO衛星(2010年)など、これまでにない強力な太陽観測網が築かれた時代でしたが、第24周期で最大のフレアは2017年9月のX9.3にとどまり、X10を上回るイベントは一度も起きませんでした。

ところが、第25周期では、最近のフレア発生数を見る限り、前周期を上回るどころか第23周期にも追い付かんばかりの勢いを見せています。これまで、第25周期の黒点数は第24周期に比べて少なくなるという予測もなされましたが、今のところ出だしは好調のようです。

近年、太陽観測網に強力な仲間が加わりました。2018年にNASAが打上げたパーカー・ソーラー・プローブは、約3ヶ月ごとに太陽を周回しつつ近日点を太陽へ接近させていき、外部コロナ(100万度に達する超高温大気)の直接探査を行います。また、2020年にESAが打上げたソーラー・オービターは、水星軌道よりも内側へ接近しつつ、太陽を高い緯度から観測します。これらの探査機は、太陽へ近づくことで、プラズマ(電離した高温ガス)がどのように加速し、太陽風として宇宙空間へ流出していくのかを明らかにします。ここには2018年にESA・JAXAの水星探査機ベピ・コロンボも加わり、内部太陽圏の多点観測ネットワークが構築されています。一方、ハワイ・マウイ島には、ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡(DKIST)が建設され、2019年に初観測を実施しました。4メートルという世界最大の口径を誇り、太陽表面の細かい磁場構造を空間分解して精密な観測を行います。

2020年代には、JAXAの次世代太陽観測衛星Solar-C (EUVST)が計画されています(2026年度打上げ予定)。「ひので」やSDOと同じく地球付近から太陽を観測する衛星ですが、紫外線という可視光より波長の短い光を使った分光観測を行います。太陽の大気は、太陽表面から上空へかけて、温度が約1万度(彩層)から100万度以上(コロナ)まで上昇します。さらに、フレアに伴って1000万度を超えるプラズマも生成されます。Solar-C (EUVST)は、紫外線分光により、これらの何ケタも温度の異なる(つまりさまざまな高度の)太陽プラズマを、同時に高時間・高空間分解する観測を初めて実現します。これにより、太陽コロナがどのように100万度まで加熱されるのか、そして太陽風はどのように加速・流出するのかという謎に迫ります。

DKISTは太陽表面の超高精度観測を行い、パーカー・ソーラー・プローブやソーラー・オービターは太陽に近づきますが、最高でも太陽半径の10倍程度の距離までしか接近できません。そのギャップを埋める、すなわち、太陽表面からコロナへどのようにエネルギーが運ばれるのかを解明することを期待されているのが、まさにSolar-C (EUVST)なのです。

2020年代半ばに打ち上げを予定しているSolar-C (EUVST)のCGイメージ画。

それだけではありません。今後、太陽活動がさらに活発になると、黒点がより多く出現し、強力なフレアが生じることが予想されます。Solar-C (EUVST)は、ちょうど第25周期の極大期から後半にかけての打上げが予定されています。このチャンスを活かし、フレアが発生する詳細なメカニズムを解明することが、もう1つの科学目標となっています。

より長期的な視点で眺めると、宇宙機観測の発展した20世紀後半は、第23周期を含めて太陽活動がおおむね活発であり、この期間に人類の太陽活動に関する理解が深まりました。第24周期は低調でしたが、次の第25周期に太陽が「元気」でいてくれれば、Solar-C (EUVST)に代表される新たな太陽観測網によって黒点やフレアの研究が進み、これらの現象が地球を含む太陽系にどのように影響を及ぼすのか明らかにすることが期待できます。

太陽は周期によって活発・低調を変化させていることから、太陽にとって「普通」の活動度とは何かという新たな疑問も湧きます。活発な周期だけを観測すると私たちの知見は活発な太陽に偏ってしまうかもしれません。反対に、過去にはマウンダー(モーンダー)極小期のように黒点がほとんど出現しなかったとされる期間もあり、このような周期だけを観測すると現在のように黒点の存在する太陽を理解できないかもしれません。それどころか、この宇宙には、太陽とよく似ているにも関わらず、太陽よりはるかに巨大なフレアを生じる星すら存在します。太陽の過去から未来にわたるさまざまな周期を研究し、恒星観測の結果とも組み合わせることで、太陽や星の多様性や共通性を見出すことが大切なのかもしれません。

(文:鳥海 森)


関連リンク:

次期太陽観測衛星「Solar-C (EUVST)」ミッションウェブサイト
水星磁気圏探査機「みお」
科学衛星「ひので」
(以下はすべて英語ページ)
パーカー・ソーラー・プローブ (NASAのサイト)
ESA ソーラー・オービター (ESAのサイト)
SDO衛星(Solar Dynamics Observatory) (NASAのサイト)