海外の宇宙ニュース:NASAのInSightミッション、終了へのカウントダウン

太陽電池パネルに積もったちりが、NASAの火星着陸機InSightが今夏その役目を終えることを告げています。InSight は、史上初めて火星に地震計を持ち込み、火星に起こる1300以上もの「火震」を検出してきました。火震データは、それが火星の内部構造を反映していることから、逆に直接には見ることのできない核から地表までの内部構造を明らかにし、火星の形成や進化を解明していく上で欠かすことの出来ない情報を提供します。つまり、火震の検出は科学的価値がきわめて高いものです。

2018年12月にNASAのInSightが初めて撮影したセルフィー(NASA/JPL-Caltech)。

InSightが検出した火震の速度と波形を調べることで、火星には予想外に大きい核があることが分かりました。また、火星の核が地球の核と同じように熱で溶けた状態であることも確認されました。火星は地球よりもはるかに小さいことから、地球に比べより早く冷却される(惑星形成時に持っていた熱を早く失う)と考えられていたので、火星の核は固体になっているだろうとの説がありました。InSightは火星の核の密度が低いということも明らかにしました。合わせて、核の主な構成成分の鉄とニッケルにより軽い元素が混じっていることで融点が下げられ、固化を遅くしていることが示唆されます。

地球以外での天体における地震観測は、InSightとともに終わるというわけではありません。NASAのDragonfly(ドラゴンフライ)ミッションは2027年に打ち上げを予定していて、その目的地は土星衛星であるタイタンです。Dragonflyに搭載されるJAXA開発の地震計は、表面を氷に覆われたタイタンの内部を覗き込むことになります。Dragonflyは着陸機であるInSightとは異なり、タイタンのさまざまな場所を飛行し移動するマルチロータードローンです。これに搭載されるJAXAの地震計は、InSightの地震計パッケージの11kgという重量に比べると、なんと300gという軽さで開発されています(される必要がありました)。[Dragonfly搭載予定の地震計に関する過去の記事はこちら(英語)]

2022年4月24日に撮影された、InSight最後のセルフィー。太陽電池パネルに塵が積もり、得られる電力がコントロール不能なレベルまで低下してしまった(NASA/JPL-Caltech)。

InSightとDragonflyはそれぞれ1台の地震計を搭載していますが、JAXAには月面に複数の地震計を設置するという構想があります。アポロ計画において宇宙飛行士が月面に地震計を置いて観測した月の地震(月震)は、地球の重力が生み出す潮汐力の影響で月がたわんで発生していると考えられています。学際科学研究系の佐伯孝尚教授は、月の内部を解明することで、地球―月系の理解に役立つだけでなく、将来の有人基地建設にも必要な情報が得られるだろうと話します。

佐伯 孝尚 教授

InSightの火震の長期間の観測と火星の内部構造の解明は本当に素晴らしい成果です。内部構造の探査は、今後の太陽系探査の大きなテーマです。地震大国である日本も、独自の高感度月震計を月にネットワーク的に配置して、未だ不確定な月の内部構造を詳しく知るという計画を検討しております。これは月面基地や月面天文台といった大規模構造物を月に展開する際にも重要な知見となると考えております。

佐伯孝尚(学際科学研究系 教授)

岩石型天体の内部構造を明らかにする主な方法として地震計測がある一方、もし内部が固体ではない場合はそれに代わる方法もあります。ESAが主導するJUICE(木星氷衛星探査計画/ガニメデ周回衛星)は、2023年の打ち上げを目指していて、表面の氷の下に巨大な内部海が存在すると考えられている木星の氷衛星を複数探査、計画の最後には氷衛星ガニメデを周回し精査します。JUICEに搭載予定の機器のうち、GALA(ガニメデ高度計)など、いくつかのハードウェアの一部をJAXAが担当します。太陽系科学研究系の齋藤義文教授は、GALAによって氷衛星ガニメデの内部海の詳細が明らかになる可能性がある、と話します。

私も昔から天体の内部構造には大変興味がありましたので、InSight の地震波観測による火星地下構造探査のニュースにワクワクしています。惑星探査が進むにつれて、地球以外の天体の内部構造も次第に明らかになっていくことでしょう。木星氷衛星探査衛星JUICE(Jupiter Icy Moons Explorer)は、木星の氷衛星と呼ばれているエウロパ、ガニメデ、カリストのフライバイ観測を行ったのち、ガニメデの周回衛星となって氷衛星の内部にあると考えられている液体の海(地下海)の探査を行います。

日本が観測装置の一部を担当しているガニメデ高度計JUICE-GALA(Ganymede Laser Altimeter)はJUICE衛星とガニメデとの間の距離を測定することで、木星の周りを廻るガニメデ衛星の形状変化を捉えて、ガニメデ衛星の地下海構造を明らかにする予定です。JUICE衛星の打ち上げは来年4月。今後のJUICEの活躍にもご期待ください。

齋藤義文 (太陽系科学研究系 教授)

InSightは、私たちに初めて地球以外の惑星の詳細な内部構造を見せてくれました。InSightのレガシーは今後も引き継がれ、惑星や衛星の形成についてこれまでよりはるかに多くの知見が蓄積されていくでしょう。

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


”海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク

JUICE-JAPAN ウェブサイト
海外の宇宙ニュース:NASA のINSIGHT、火星の内部を覗き込む – Cosmos

(以下はすべて英語ページ)
Measuring the wave thought Titan: ISAS builds a seismometer for NASA’s Dragonfly mission (過去のCosmos記事)
NASA Insight ミッションの科学成果 (NASAのウェブサイト)
Dragonfly ミッション (NASA/Johns Hopkins のウェブサイト)

齋藤 義文 教授