海外の宇宙ニュース:最も遠い(最も古い)銀河の候補が発見される

2022年は古代天体の発見が相次ぐ記録的な年になっています!この2ヶ月の間にハッブル宇宙望遠鏡は、宇宙が誕生してからまだ10億年にも満たない頃に存在していた星と、急速に成長しているブラックホールの両方を発見しました。そして4月初めには、観測史上最古の(最も遠い)銀河の候補の発見が、国際的な天文学の専門誌2誌に発表されました。

HD1の拡大画像 (Harikane et al.)。

光の速度は有限であるので、私たちは昔の宇宙の姿を今「見る」ことができます。きわめて遠い天体からの光は私たちのところに届くまでに時間がかかり、何十億年もの時間がかかることがあるのです。つまり、望遠鏡が映し出すのは今現在の物体ではなく、はるか昔にその光が発せられたときの物体ということになります。今回報告されたHD1からの光は、なんと135億年も旅をしてきたと考えられ、ビッグバンからわずか3億年後の宇宙に存在した銀河の姿を、今そこに映していると考えられます。

ただ、HD1 が間違いなく太古の銀河になのか、それとももっと近くにあり、光がより遠くから届いているように見えるだけの天体なのか、今のところわかっていません。宇宙物理学研究系の中川貴雄教授は、HD1の正体を知る手がかりは、この銀河の候補をさまざまな波長の光で観測することで得られるだろうと話します。そこでは宇宙望遠鏡が大いに活躍してくれることになります。

候補となっている天体は、可視光線では全く検出されず、赤外線のみで検出されました。これらの特徴が、これらの天体が、高赤方偏移天体(過去の天体)である可能性を示しています。

今回の発見は、銀河進化の研究にとり、大きなマイルストーンとなりえるものです。この発見に基づき、著者らは、日本が関係している将来ミッションが銀河進化研究に果たす重要性も指摘しています。そこには、日本が参加する NASA のミッション ROMAN 宇宙望遠鏡と、日本語主導する赤外線天文ミッション GREX- PLUS が含まれています。

ー中川貴雄(宇宙物理学研究系 教授)

今回の発見が興味深い理由は、銀河の年齢だけではありません。HD1は紫外線を強く放射しているのですが、これには高いエネルギー源が必要です。1つの可能性として、古代の銀河が驚異的な速度で星を形成していたことが挙げられています。宇宙物理学研究系の山口弘悦准教授は、このように考えることで宇宙がどのようにして多くの化学元素で満たされるようになったかを理解できるようになるかもしれない、と説明しています。宇宙の始まりではきわめて軽い元素だけが存在していて、炭素、酸素、シリコン、鉄などの重い元素は星の内部の核融合炉で形成されてから、周囲の宇宙空間に流出しました。ですが、この生成がどのようペースで進んだのか、正確なところはまだわかっていません。山口准教授は、これをさらに詳しく調べるため、もっと高エネルギーのX線を観測することに関心を寄せています。

宇宙最初期の銀河候補とのことでその検出自体も重要ですが、この銀河(候補)では、最近の宇宙と比べて星生成率が極めて高く、重い星の割合が高かった可能性が指摘されている点が非常に興味深いです。

この天体が存在した時代よりももっと後の宇宙の話になりますが、今年度JAXAが打ち上げ予定のXRISMや、2030年代にESAが打ち上げ予定(JAXAも参加)のAthenaも、銀河団の重元素組成やその分布を調べ、どの時代にどのような星が作られたかを詳らかにします。誕生直後には一部の軽元素しか持たなかった宇宙が、どのような経緯で現在のように多種多様な元素を持つようになったのか、解き明かされる日が待ち遠しいですね。

ー山口弘悦(宇宙物理学研究系 准教授)

山口 弘悦 准教授
山田 亨 教授

HD1が宇宙で最初に存在した銀河の一つに存在するということが証明されれば、その性質から、いずれは太陽のように生命惑星を宿す星を生み出すことに至る宇宙の若い頃の姿を垣間見ることができるだろう、と宇宙物理学研究系の山田亨教授は話します。

宇宙最初期の銀河形成の理解につながる重要な発見です。この地球から、135億年前の宇宙の天体形成の歴史の最初の1ページを知ることができるのは、本当にわくわくすることです。今後、宇宙のより広い領域を系統的に調べることによって、さらに宇宙初期にさかのぼって「初代銀河」とよべる天体を探索することや、また、ガンマ線バーストなどの現象を用いて個別の星の形成に迫る研究も期待できます。JAXAでもこのような研究を目指す将来の宇宙科学ミッションの構想が提案され、検討が行われています。

ー山田亨(宇宙物理学研究系 教授)

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


”海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク:

XRISM X線分光撮像衛星
ATHENA ウェブサイト (欧州宇宙機関)
ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡