海外の宇宙ニュース:米国のディケーダル・サーヴェイASTRO2020がリリース

今年11月、米国国立科学アカデミーはディケーダル・サーヴェイ(10年おきに行われる研究分野動向調査)を「2020年代の天文学と宇宙物理学におけるディスカバリーへの道」、通称 ”Astro2020” と題してリリースしました。この調査は、天文学・宇宙物理学分野において最も説得力のある科学的目標を設定し、それをもとに「米国国立科学財団やNASAなどの機関における今後の活動の焦点は何であるべきか」という提言を行うことを狙いとしています。

大規模なプロジェクトの開発を導くうえでAstro2020は重要であることから、このサーヴェイでの提言事項は米国内だけでなく世界中の研究者から大きな関心を集めています。中でも「新グレートオブザーバトリー計画」と名付けられた、新たな時代に必要とされる強力な宇宙望遠鏡について強調されていることが目を引きます。最優先事項として「生命居住可能な世界があればそれを同定できる望遠鏡」、次に宇宙を「遠赤外線」と「X線」による観測で探査する望遠鏡が続きます。宇宙物理学研究系の山田亨教授は、これらの計画を進めるには、この先数十年にわたってブレることのない長期展望が必要であると話します。 

米国の国立アカデミーによる天文学・宇宙物理学分野のDecadal Survey レポート “Pathways to Discovery in Astronomy and Astrophysics for the 2020s”が現地時間2021年11月4日に公表されました。注力する科学分野のひとつの優先課題として「地球類似型惑星の発見への挑戦」が掲げられ、これを“ Are We Alone?”という根本的な問いに答える科学目的としている点や、大型計画の実施に pan-decadal という長期的展望をしめしている点、そして、2020年代には最優先大型計画の技術的・計画的成熟のためのプロセス自体を強く求めているところなどが目を引きます。

注目を集めたスペースの基幹計画としては、地球類似惑星の直接観測などを実現する主鏡口径6m級の紫外線・可視光線・近赤外線波長域をカバーする望遠鏡計画が最優先課題として提唱され、その後、これに続く計画をあわせて 2040年代、50年代に までいたるX線や遠赤外線ミッションを含む新たな Great Observatories の実現が求められています。同時にバランスをもって持続的にすすめるマルチメッセンジャ観測の重要性や中型・小型の計画も継続発展的にすすめてゆくことが必須であることが提言されました。

このような米国の展望は、日本の天文学・宇宙物理学とも無縁ではありませんし、今後のミッション立案に際しても国際的な動向は大きな因子のひとつです。日本の宇宙科学においても、しっかりと自分たちの長期的展望を議論し、継続的な発展をもたらす具体的な計画立案をすすめつつ、独自性を持つとんがったJAXA ミッションの実施と、国際協力による研究の発展を、あわせて達成してゆくことが求められるでしょう。

-山田 亨(宇宙物理学研究系 教授)

山田 亨 教授

「系外惑星探査を重視する動きは理解できるもの」と太陽系科学研究系のエリザベス・タスカーは話します。タスカーは、系外惑星科学を、これまでの ”発見してリストを作る” の段階から、発見された惑星が ”どういう特徴を持つ世界であるのかを記載する段階” へとフェーズアップさせるため、強力で新しい機器の開発に取り組むべき時が来たのだと確信しています。

私たちは今、系外惑星科学の新時代の幕開けを迎えています。ケプラー宇宙望遠鏡などのミッションが新たな惑星の発見で成果を上げた一方、次世代の望遠鏡は系外惑星の表層環境を明らかにすることに焦点を当てています。このディケーダル・サーヴェイにおいて新たなグレートオブザーバトリー計画が提案されたことやTMTのような地上ベースの超大型望遠鏡が注目されていることは、地球サイズの惑星がいくつあるのかという情報だけではなく、それらが本当に地球に似た環境をもつのか、実はさらに楽しみなことには、私たちの想像を超えた全く異質な環境をもつのではないのか、といったことを解明することへの期待やコミットメントを表している、と言うことができます。

JAXAで開発中のUVSPEXという機器は惑星が地球のような環境なのか金星のような環境なのかを識別するように設計されていますし、それらの世界を直接撮像することが期待できるナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡へ私たちが参画すること、さらには地球の生命居住可能性のために何が必要だったのかを解明するISASの “太陽系探査艦隊”が計画されていることから、日本でも同様の盛り上がりがあることを実感できます。

-エリザベス・タスカー(太陽系科学研究系 准教授)

また、赤外線やX線で観測するグレートオブザーバトリー計画が提言されたということは、これらの波長での観測によるサイエンスに対して世界的に関心が高いことを顕著に表しているとも言えます。山田教授は、欧州宇宙機関(ESA)とJAXAの共同ミッション候補であった赤外線宇宙望遠鏡「SPICA」は採択されなかったものの、Astro2020ではそのような観測機器の重要性が明確に認識されている、と話します。また、宇宙物理学研究系の国際トップヤングフェロー、ライアン・ラウも同じように、赤外線探査への世界的な関心の高さは将来の成果につながると考えています。

Astro2020は次の10年における天文学の野心的なビジョンを形にしていて、私たちの宇宙の起源を探るために赤外線探査がいかに重要であるかについて特に強調しています。目標を達成するためには、私たち天文学者がこれまでに育んできた強固な国際協力のネットワークが不可欠だと思っています。

-ライアン・ラウ(宇宙物理学研究系 国際トップヤングフェロー(ITYF))

X線探査に関して、宇宙物理学研究系の山崎典子教授が今後の国際協力ミッションに日本が深く関わることによる相乗効果について述べています。山崎は、Astro2020への高い注目度により、宇宙の未解明課題に対し世界中の科学者たちが連携して挑戦する機会が増えることを期待しています。

宇宙を知りたいという試みを続けること、そのために宇宙にでるチャレンジは終わらないことをdecadal surveyは力強く宣言している。今私たちが作っているX線分光撮像衛星XRISM, そしてAthenaにアメリカは協力し、そして次に続くものを探し続けていく。さらなる技術開発が必要なことも理解、覚悟しながら、30年先を見据えて太い知の流れを作りだそうとしている。XRISMが拓くであろう新しい観測手段は、Athenaでの日米欧の結束で更に豊になるだろう。そしてその先を求めていくときに、我々もまた、共に歩んでいけるだろうか。面白いこと、知らないこと、やれること、やるべきことがまだまだ沢山あるぞ、という一人一人の思いが日本の、そして世界の流れに繋がる。

-山崎 典子(宇宙物理学研究系教授)

天文学・宇宙物理学は、ますますエキサイティングな時代へと突入していきます!

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


“海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク:
Pathways to Discovery in Astronomy and Astrophysics for the 2020(英語サイト)
太陽系の外から見れば、地球も金星も同じ?:違いのわかる観測をUVSPEXで実現する(過去の記事)
XRISM X線分光撮像衛星ウェブサイト