海外の宇宙ニュース: NASAパーカー太陽探査機が太陽大気(コロナ)での「その場」観測を実施

太陽大気(コロナ)は高温であり、電離してプラズマ状態にあるだけでなく、太陽の強大な重力をもってしてもそれを太陽の近くにとどめておくことができません。つまり、太陽からプラズマガスの流れである太陽風が吹き出すことになります。太陽風は、星間ガスに堰き止められるまで太陽系空間を満たします。この、太陽風の影響下にあり、電磁場とプラズマガスのダイナミクスで支配される空間を「太陽圏:Heliosphere」 と呼びます。

NASAは「人類はついに太陽を触りました」とのリリースを出しました。これは、どういう意味なのでしょうか?

太陽風は、コロナ中でのプロセスによって加速されます。つまり、太陽表面からの高度とともに速度が上がります。ある高度以下では、速度は小さいために磁場からの力によって運動が左右される状態となっています。速度がアルフヴェン速度と呼ばれる値を超えると、今度はガスの流れが磁力線を引っ張ることになります。このプラズマガス流と磁場との立場が入れ替わる境界をアルフヴェン臨界面と呼びます。

太陽に繰り返し接近して観測を行うNASAの太陽探査機、パーカー・ソーラー・プローブ(以下「パーカー太陽探査機」)は、このアルフヴェン臨界面を横切り、その下に広がる磁場が支配する世界においてプラズマ粒子と電磁場の「その場」観測を行いました。そこは、つまり、太陽コロナは、我々がよく知る太陽風中とは異なり、静かな世界だったようです。

パーカー太陽探査機が到達したのは、まだ太陽コロナの端です。コロナ中での太陽風加速のプロセスを理解するためには、太陽表面やそのすぐ上に拡がるコロナにおける加速される前のプラズマ状態を知る必要があります。

太陽大気が終わり太陽風が始まる境界であるアルフヴェン臨海面に近づく、パーカー・ソーラー・プローブのイメージ画 (NASA/Johns Hopkins APL/Ben Smith)。

清水 敏文 教授

パーカー太陽探査機は約3ヶ月ごとに太陽に接近します。JAXAの「ひので」衛星は、接近の機会には、支援観測を行ってきています。パーカー太陽探査機は、太陽風を構成するプラズマ粒子と磁場の「その場」観測することで、太陽風の振る舞いを理解しようとしています。「ひので」観測は、パーカー太陽探査機が観測した太陽風が太陽面のどこから出ているのかを特定する際に有用と考えられています。しかし、太陽面からパーカー太陽探査機の地点まで太陽磁場を追うにはまだ誤差が大きく、流源の太陽構造の特定には至っていません。これから数年かけて、パーカー太陽探査機はさらに太陽に接近していきます。最接近が実現する2020年代中盤以降には、現在開発が始まった次期太陽観測衛星Solar-C(EUVST)が飛翔します。様々なイオン種のプラズマの速度観測を今までにない解像度で行うことで、太陽表面からコロナ、そして太陽圏への繋がりを特定できることを期待しています。

ー清水敏文(SOLAR-Bプロジェクトマネージャ)

太陽風は太陽磁場を太陽圏へと引っ張り出しています。太陽面での活動は、太陽風やそれが運ぶ磁場の変動を通じて、太陽圏での変動をもたらします。ここには、地球周辺の宇宙環境も含まれます。

実は、2020年代はパーカー太陽探査機だけではなく、ESAソーラーオービターなどにより、地球より太陽に近い内部太陽圏の観測がかつて無いほどに充実しています。日本はその中で、水星探査機「みお」が水星軌道付近の太陽風と水星周辺の宇宙環境を観測しますし、Solar-C (EUVST)衛星が太陽風加速の謎に迫る観測を行います。また、地球ではジオスペース探査衛星「あらせ」が、太陽風変動の結果として生じる、地球周辺の宇宙環境変動を観測します。

こうした衛星・探査機群の観測に、更に地上からの太陽風観測や数値シミュレーション、などを加え、JAXA宇宙科学研究所と名古屋大学宇宙地球環境研究所が協力して、太陽面から地球惑星周辺の宇宙環境までをシステムとして捉え、融合的な研究に研究をリードすることを計画しています。

私たちは、これらをつなぎ合わせることで、太陽面の磁場変動がどのように太陽圏に広がり、地球・惑星間空間の宇宙環境に影響を与えるのか、一連の流れが手に取るように見ることのできる日がくるのではないかと期待に胸を膨らませています。

ー篠原 育(太陽系科学研究系 准教授)
篠原 育 准教授

2021年11月4日、北極圏スヴァ―ルバル諸島にある射場から打ち上げられた観測ロケットSS520-3号機は、地球大気と宇宙空間とをつなぐチャンネルであるカスプ領域に打ち込まれました。

太陽は私達の地球に大きな影響を与えています。私達は、地球の電離圏から大気が逃げ出す現象を調べるために北極海のスピッツベルゲン島から先々月の11月にSS-520-3号機観測ロケットを打ち上げました。予定していた観測は大成功、これは観測ロケット打ち上げの2日前に太陽表面の爆発現象である太陽フレアがおこり、その影響が地球に及んで地磁気嵐が発生してくれたからです。太陽に感謝!

ー齋藤 義文(SS-520-3号機観測ロケット実験PI)

(文: 藤本正樹)


”海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク:
The NASA Parker Solar Probe (NASA/APL ウェブサイト)
太陽観測衛星「ひので」 (国立天文台ウェブサイト)
次期太陽観測衛星 Solar-C (EUVST)
ギャラリー画像(ノルウェー・ スヴァールバルでのSS-520-3号機実験)