深宇宙をともに冒険するために-ハンスイェルク・ディトゥス教授が、宇宙科学研究所賞授賞式で「友人としてつき合うこと」の重要性について語りました

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「まず初めに、」ハンスイェルク・ディトゥス博士は宇宙科学研究所賞の授賞式でこのように始めました。「社会的、政治的な変化に屈さない、長い間維持できる、サステナブル(持続的)な協力体制が必要です。これは私生活においては友情と呼ばれるものです。宇宙機関同士であっても、友好関係を築いていくことは私たちの義務と言えます。」

JAXA宇宙科学研究所賞は、宇宙科学および探査プロジェクトの実施に当たり顕著な功績または貢献のあった外部機関所属の方々に授与するために設けられました。今年は、「はやぶさ2」のランダー「MASCOT」開発成功と「火星衛星探査計画(MMX)」のローバー開発着手へと導き、宇宙科学研究所とドイツ航空宇宙センター(DLR)との共同研究の推進に貢献した、ドイツ・ブレーメン大学(受賞当時)のハンスイェルク・ディトゥス教授が受賞されました。

宇宙科学研究所賞 授賞式にて、ディトゥス教授(画面)、國中均宇宙科学研究所長(右)。

ディトゥス氏は授賞式で、宇宙探査に興味を持つようになった決定的契機のひとつは、30年前に日独共同で行った月周回衛星(工学実験衛星)「ひてん」(MUSES-A)であったと振り返りました。1990年にJAXAが打ち上げた「ひてん」は、ミュンヘン工科大学が開発した宇宙塵センサーを搭載した11kgの小型衛星でした。ディトゥス氏が衝撃を受けたのは、そのコンパクトさだったと言います。

2018年10月3日、MASCOTランダーが探査機から分離し、小惑星リュウグウの表面に向かって落下する様子を「はやぶさ2」搭載のONC-W2カメラで撮影した 様子(JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研)

「月着陸を含めアポロ計画で育った私にとって、小さな衛星や探査機で優れたミッションを成功させることができるということを知ったのは、まったくの新しい経験でした」と彼は説明します。「私はすぐに魅了されました。」

「ひてん」から「はやぶさ2」に至るまでの長い共同研究の歴史は、多くの人々の献身的な努力なしでは成し得ませんでした。ディトゥス氏は今回の受賞を、コミュニケーションの課題、文化の違い、時差などを乗り越え国境を跨いで協力した「はやぶさ2」ミッションにかかわったすべてのチームメンバーの成果である、と強調しています。

この努力は、2018年10月にランダー「MASCOT」が「はやぶさ2」から分離し小惑星リュウグウの表面に無事に着陸する、という形で結実しました。これは、当時ちょうどブレーメンで開催されていた国際宇宙会議(IAC)においても生中継されました。

「私にとって「はやぶさ2」は、欧州と日本の機関による長期的な協力関係の特別な集大成と言えます」とディトゥス氏は話します。「だからこそ、リュウグウへの着陸成功のすぐあとにフランス国立宇宙研究センター(CNES)、DLR、ISAS間で(MMXに関する)協力体制を確立できたことをとても嬉しく感じました」。

次のステップとしては、JAXAが主導する火星衛星探査計画(MMX)の一部として、DLRとCNESが開発したローバーが開発されます。MMXは、赤い惑星の2つの衛星であるフォボスとダイモスを訪れ、フォボスのサンプルを収集することになります。ローバーはフォボスの地表を探査し、探査機本体だけでは訪れることが不可能な、科学的に魅力的な場所を複数訪れる予定です。

火星衛星探査機(MMX)のローバーの想像図 (CNES)

ディトゥス氏が特に重要だと感じているのは、このようにミッションからミッションへと協力関係を継続することです。宇宙ミッションでは3年から10年という長期にわたるプロジェクトがつきものです。今後のミッションはさらに長期化し、打ち上げから25年以上継続するといった可能性もあります。これほど極端なタイムスパンのミッションは、社会的、また政治的な変化を乗り切るため、完璧な文書化や知識や資金の管理といった手続き面での整備は当然のこと、何よりも、友好関係によって支えられるでしょう。友好関係があるからこそ科学者それぞれのキャリアの枠を超え、次の世代が完成させるような思い切った科学的探求も敢行することができるようになるのです。

「将来、(宇宙ミッションは)よりチャレンジングな目標に向かってより長く実行されるようになるでしょう」このようにディトゥス氏は締めくくります。「仮にその成功を見ることが叶わなくても、私たちはこれらのミッションを立ち上げ、打ち上げ、次世代に引き継げたなら、私たちは感謝されることでしょう。深宇宙を大胆に冒険するには、研究室や権キュ所の間、そしてもちろん私たちのような宇宙機関の間で、政治的にも安定したサステナブルな国際協力体制が必要なのです。」


関連リンク:
宇宙科学研究所賞
授賞式の写真(ギャラリー)
「はやぶさ2」プロジェクト
火星衛星探査計画(MMX)