世界の宇宙ニュース:ふたご座流星群の発生源は、地上で発見された珍しい隕石タイプの母天体?

ふたご座流星群は、年の瀬の空を彩る流れ星による光のショーです。この流星群のもと(発生源)は太陽に近づくと彗星のように尾を引く、でも岩石から構成されていると思われる小惑星フェートン(Phaethon)から放出される破片だと考えられています。JAXAのミッション「DESTINY+(デスティニープラス)」の目標はフェートンのふるまいを調べることです。小惑星と彗星の特徴を併せ持つこの変わった天体へ、近接フライバイによる探査を計画しています。ですが最近の研究によって、フェートンの最も不思議な特徴は、小惑星なのに彗星的な活動を見せる点ではなく他にあるということが示唆されました。

2023年のふたご座流星群の180度VRビュー。マウナケアのすばる望遠鏡の全天カメラにより撮影 (original link).

Spitzer 宇宙望遠鏡の中間赤外スペクトルからDESTINY+の目標天体Phaethonは、CYコンドライトいう炭素質隕石と似た物質であることがわかった。CYのYは南極のYamato(やまと)山脈に由来。昭和基地の南西約300kmにある山脈で、日本の南極隊の地質研究者が世界で初めて南極で隕石を発見した場所。

荒井 朋子(DESTINY+理学ミッション責任者、千葉工業大学惑星探査研究センター主席研究員)

NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡がフェートンの表面からの中間赤外線放射を観測した成果が、最近公開されました。さまざまな波長での放射の強さ(スペクトル)を見ると小惑星の組成に関する特徴をとらえることができ、他の天体と比較することが出来ます。フェートンを構成する岩石に最も近いのは炭素質コンドライト隕石と考えられています。炭素質コンドライトは地上で発見される隕石のうち5%未満という珍しい種類です。さらにフェートンのスペクトルは、炭素質コンドライトの中でも「CY」という極めて珍しい種の隕石のスペクトルとよく合致しています。地上で発見された数少ないCYコンドライトを分析することでその歴史が少しずつ明らかになっていますが、これはフェートンの歴史を説明し得るものであり、さらにそれは特殊なフェートンのふるまいを説明できる可能性があります。

CYコンドライトは、母天体で水質変成を受けた後、最高800℃近くまで加熱され脱水している稀な種類。Phaethonは小惑星RyuguやBennuと同様に炭素や有機物に富む小惑星。太陽に接近して800℃近くまで炙られているPhaethonの熱史は、CYコンドライトのそれと類似する。

太陽接近時の輻射熱で、炭酸塩や硫化物が熱分解されて生じる二酸化炭素や硫黄ガスが、Phaethonからのダスト放出の原因かもしれないと示唆している。一方、Naの昇華ガスや静電浮遊が原因とする論文もある。Phaethonのダスト放出の謎解きは続き、DESTINY+への期待は高まります。

荒井 朋子
荒井 朋子
「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから採取したサンプルのキュレーション作業が行われる様子

フェートンのダストの尾を解明できるかもしれないことのほかにも、CYコンドライトとフェートンの一致の可能性を面白いと思わせる理由があります。炭素質コンドライトは、形成時に水を必要とする水和鉱物や有機分子を豊富に含んでいます。これが示唆することは、このタイプの隕石が水を液体の形で保持するのに十分なサイズを持つ母天体を構成していたものであり、かつ、水や有機物を地球に運んできたもの(すなわち、地球を生命居住可能にしたもの)である可能性があることです。炭素質コンドライトにもさまざまなタイプがあり、それぞれの起源を知ることは太陽系形成最初期の物質や生命居住可能性を生み出した条件について探ることです。このような重要性があるにも関わらず、炭素質コンドライトの母天体の歴史を明らかにすることには課題があります。

CYコンドライトとは、隕石の中でも数が少ない炭素質コンドライトの中でも、さらに数が少ないYamatoタイプに属するもので、その起源が正確にわかっていない隕石です。PhaethonとCY隕石の関係が明らかになれば、彗星と炭素質コンドライト隕石の関係のみならず、両者の起源が明らかになるはずで、DESTINY+の結果が楽しみです。

臼井 寛裕(地球外物質研究グループ長)

炭素質コンドライト隕石は希少であるだけでなく、地上に落下してきた隕石は地球上の物質によって汚染されてしまいます。このため、コンドライト隕石の型を調べて太陽系内での進化の様子をマッピングするのはとても難しいことです。簡単ではないものの最良の解決策としてあるのは、隕石が汚染される前、つまり、宇宙空間にある段階でこちらから小惑星を訪れてその特長を把握することでしょう。

臼井 寛裕

その”解決策”を実行に移し、炭素質コンドライトの母天体であると予想された小惑星を訪れたのが「はやぶさ2」です。小惑星リュウグウを構成する岩石はCIコンドライトという種類の隕石とほぼ同一であることが分かりました。これは太陽系が始まってから大きな変化を遂げていない、きわめて始原的であり珍しいタイプです。私たちはリュウグウの組成をみることで惑星を形成した初期の物質について知ることができ、現在のリュウグウの軌道をみることで(太陽系の外側で生まれた)きわめて始原的な物質がリュウグウに乗りつつどのように地球の近く(太陽系の内側)までやってきたのかなどの情報を得ることもできます。

一方、CYコンドライトは顕著な加熱を経験しており、含まれる鉱物を脱水を経験しています。これは、同じく始原的な物質であるCIコンドライトとは異なった進化の道筋を経たことを示しており、惑星を生命居住可能せしめた物質が初期太陽系内でそのような動きを見せたのかをマッピングするためには理解しておくべきものです。もしフェートンがCYコンドライトから成ることが証明されれば、DESTINY+は地上物質で汚染されていないCYコンドライトの母天体を初めて近くで探査することになり、この隕石タイプが持つメッセージを解読する上での更なる手がかりを与えてくれるでしょう。

矢田 達

ふたご座流星群の元となった彗星-小惑星遷移天体と目されるPhaethon表面の赤外分光観測のスペクトルが、加熱脱水を経た始原的炭素質コンドライト隕石であるCYコンドライトに最も近かった、という今回の結果は興味深い内容です。もし、PhaetonがCYコンドライトの母天体であった場合には、ふたご座流星群の供給源からの隕石という非常に興味深い事例となりますし、これまで主に母天体の熱源によるものと考えられていたCYコンドライトの加熱脱水の原因が太陽による加熱によるものだとすれば、新たな成果です。

また、一方でリュウグウの例と同じく、小惑星表層スペクトルがレゴリスが受けた宇宙風化による脱水に影響されており、内部にはまだフレッシュな彗星物質が生き残っていたとすれば、それもまた面白いと思います。DESTINY+の観測結果で上記の点が解明出来ることを期待します。

矢田 達(地球外物質研究グループ)

流星群のもたらす流れ星に向かって、フェートンよりも面白い天体が見つかるように、と願いごとをする人はなかなかいないのではないでしょうか?・・・フェートンはそれほどに興味をそそる天体なのです。

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


“世界の宇宙ニュース” (旧”海外の宇宙ニュース”) シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

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