海外の宇宙ニュース:#WEBBWOWの1年

幼いころ体験したようなクリスマスの感動は、大人になって再び味わうことは出来ないと言われます。ですが2021年12月25日に空を見上げていた天文学者たちは、そうは思わなかったでしょう。この日、史上最強の宇宙望遠鏡が打ち上げられようとしていました。

ウェッブ望遠鏡が展開する様子を示したアニメーション(NASA Goddard)。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、ハッブル宇宙望遠鏡の100倍の感度を有する赤外線望遠鏡です。NASA、欧州宇宙機関(ESA)、カナダ宇宙庁の国際的な取り組みであるウェッブ望遠鏡は、打ち上げられてから望遠鏡が完全展開されるまで何百ものプロセスを必要とし、数週間の時間を要するほどの複雑な構造をしています。これは工学における飛躍的進歩である、と太陽系科学研究系の塩谷圭吾准教授は説明します。

JWST は大型化のため、折り畳んだ状態で打ち上げ、軌道上で展開する、複雑な構造を採用しています。そのため主鏡ですら、多数の分割鏡で構成されています。その複雑構造が、展開だけでなく光学的精度での調整にも成功しています。展開構造は技術的に高度ですが、ロケットフェアリングによる大きさの限界を打開する技術です。今後の宇宙科学望遠鏡の構造という視点においても、JWSTの成功はたいへん重要です。

塩谷 圭吾(JUICE/GALA-Japan プロジェクトマネージャ)/ 2022年9月

宇宙に出たJWSTは、月を通り過ぎ、重力的に安定したL2と呼ばれる領域までの約150万キロメートルの旅を無事に終え、絶対零度7度を超えない温度(-266℃)まで冷却される必要があります。

ウェッブ望遠鏡がようやく準備万端となったのは今年の夏でした。そしてウェッブ望遠鏡は赤外線という光を通して、宇宙のこれまでになかったような観測を開始しました。

ウェッブ望遠鏡から届いた初めての画像が公開されてから、私たち研究者はISAS公式Twitterに#WebbWOWというハッシュタグをつけ、第一印象から率直なコメントを投稿してきました。今日はクリスマスケーキを片手に1年を振り返り、#WebbWOWのハイライトを見てみましょう!

最古の光

7月11日、ジョー・バイデン米大統領は、ウェッブ望遠鏡がとらえた最初のフルカラー画像を公開しました。ウェッブ望遠鏡は、画像中心の周りに弧を描く数多くの銀河を撮像しました。これはウェッブ望遠鏡がきわめて暗い天体を捉えるために約12時間半の間、はるか遠い宇宙を見つめ続けて生成できた初めての「ディープフィールド」の画像です。ディープフィールドとは、近くに明るい天体がほとんどなく遠くの宇宙までを見通すことのできる領域のことを指します。画像では、SMACS 0723と呼ばれる画像中央にある銀河団に焦点が合わせられています。SMACS 0723の重力がとても強いことから、それより遠くに存在する銀河からの光が、重力レンズ効果によってその周囲で弧をなしているのが分かります。

ウェッブ望遠鏡が初めてとらえたディープフィールド。銀河団SMACS 0723の重力レンズ効果により、これまでで最も遠方な宇宙の鮮明な赤外線画像 (NASA, ESA, CSA, STScI)。

そして驚くべきことにSMACS 0723があまりに遠いことから、この人類史上最も強力な望遠鏡が捉えるSMACS 0723の光は、地球が生まれる以前の光なのです。太古より届く光を詳しく調べることで銀河の形成に関し多くのことを学べる、と宇宙物理学研究系の山田亨教授が説明します。

近赤外線カメラ (NIRCam) によって、赤方偏移 z=0.39 の銀河団の領域を観た画像です。(赤方偏移0.39ということは、我々はこの銀河団の約46億年前の姿を見ていることになります。46億年前は、ちょうど天の川銀河の円盤の片隅で太陽系が誕生した頃ですね。) 近赤外線の波長帯で宇宙を見通したものとして、すでに、これまでで、最もシャープで深いものになっていて、銀河団の背景には、これまでに知られている最も遠い(138億年前の宇宙の始まりに最も近い時代の)銀河までがとらえられています。

画像中には、背景にある銀河の姿が、銀河団の重力レンズ効果によって「引き延ばされた」ものである、大小様々なアーク(円弧)状の構造が、これまでにないシャープさ、明確さでくっきりと、とらえられています。これらのアーク画像を用いて、これを再現するように、銀河団の中の暗黒物質の質量分布を非常に精密にモデル化することができます。

重力レンズされた高赤方偏移銀河のアーク画像をよくみると、驚くべき詳細な内部構造が見えています。精密な質量モデルと重力レンズ効果を「元に戻す」計算手法によって、アークの光の詳細な分布から重力レンズなしには見えないような、遠方の暗い銀河本来の詳細な内部構造を再現することができます。

この画像では、銀河団の重力に捉えられ落ちてきた銀河のガスが銀河団の高温ガスとの「衝突」で剥ぎ取られている様子や、また画像中央の巨大な銀河の周辺部に点在する多くの球状星団や矮小銀河の分布までもがくっきりと映し出されています。

山田 亨(宇宙物理学研究系)/ 2022年7月

ダストから恒星まで

翌日、ウェッブ望遠鏡がとらえた画像がさらに4枚公開されました。新たな星を生み出すカリーナ星雲の様子やステファンの五つ子として知られる銀河団、WASP 96bという惑星大気のスペクトル、そして寿命を迎えようとする恒星から出るダストとガスがつくりだす南のリング星雲の姿です。

ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)による、カリーナ星雲(NGC 3324)の合成画像  (NASA, ESA, CSA, STScI)。

ウェッブ望遠鏡の主鏡はハッブルの7倍ほどの面積がありますが、目を見張るほど素晴らしい画像がこれだけ出てくるのは、光を集める力の違いだけに依るのではありません。ウェッブ望遠鏡には近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)があり、赤外領域にある異なる波長で宇宙を見ることが可能です。NIRCamは星が最も明るく見える、より波長の短い光を捉えます。MIRIはダストの放つ光を捉えることで、若い星からのアウトフロー等を浮かび上がらせます。これら二つの機器を組み合わせた時に発揮される力がいかに素晴らしいか。これは、山田教授のカリーナ星雲画像に関する第一印象コメントからも分かります。

カリーナ星雲の一部である「宇宙の崖」の写真もまた、すごい画像です。NIRcamを用いて近赤外線で得られた画像では、絵に描いたような美しいダスト(塵)の分布が織りなす光景がひろがり、その中では生まれたての星たちがこれを照らして陰影を作っています。

さらにMIRI装置で得られた中間赤外線の画像と合成した波長1-20ミクロンで得られた画像では、塵につつまれ、波長の短い近赤外線では見えなかった、まさに誕生しつつある星の姿が見えてきます。

原始星から両極側に吹き出すガスや、塵の「柱状」の構造の突端から吹き出すガスなどの姿も克明に捉えられています。これまで、ハッブルでは短い波長の近赤外線しか観ることができず、スピッツァー衛星や「あかり」衛星では十分な解像度がありませんでした。

JWST は6.5mの大口径での赤外線観測を可能とし、このような詳細な、また塵につつまれた星形成領域の姿を鮮明に見せてくれます。

山田 亨 / 2022年7月

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のMIRIがとらえた、ウォルフ・ライエ140を取り囲むダストリング (NASA, ESA, CSA, STScI, JPL-Caltech)。

ウェッブ望遠鏡による初期科学観測の一つでISAS国際トップヤングフェローとして在籍当時のライアン・ラウ博士が提案した観測にも、MIRIがダストを画像として捉える性能が役立ちました。ラウ博士は、巨大なウォルフ・ライエ星を含む恒星ペアにおけるダストの振る舞いを調べるための観測をリードしました。その結果、恒星ペアが同心円状のダストリングを作り出している様子を捉えることができました。

私たちはこの連星系の1世紀以上にわたるダスト生成を見ています。この画像から、JWST(ウェッブ望遠鏡)の感度がどれだけ高いかわかります。以前は地上望遠鏡を使い、ダストリングを二つしか確認することができませんでした。今私たちは少なくとも17個見ることができています。

ライアン・ラウ(米国NSF国立光赤外線天文学研究所)/10月13日ウェブリリース内コメントより)

宇宙を動かすもの

ウェッブ望遠鏡には、赤外線をさまざまな波長に区分け、それらの強さを比較する(分光観測)という機能もあります。この分光観測からは、様々な分子が、それぞれ、ある特定の波長で輝くことから、分子組成を明らかにすることができます。波長ごとの光の強さをプロットしたものが「スペクトル」で、測定する機器が「スペクトロメータ(分光器)」です。ウェッブ望遠鏡には近赤外線分光器(NIRSpec)と、近赤外線撮像分光器(NIRISS)の二つの分光器があります。

ステファンの五つ子銀河。ウェッブ望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線装置(MIRI)がとらえた五つの銀河  (NASA, ESA, CSA, STScI)。

ウェッブ望遠鏡が公開した最初の画像で、NIRSpecは「ステファンの五つ子」のうち一つにある活動的なブラックホール(AGN)の周りに存在するガスの組成を調べました。この情報は、銀河が互いにどのように影響しあっているかを理解するのに重要である、と山田教授が説明します。

「ステファンの五つ子」として知られる天体の息をのむほど美しい画像も公開されています。ステファンの五つ子は、良く知られた銀河のグループで、五つの銀河のうち、四つは2億9千万光年先で実際にひとつの銀河群を形成しており(残りのひとつは4千万光年の銀河でたまたま重なって見えています)またそのうちのひとつの銀河には活動的な巨大ブラックホールが存在します。

JWST画像では、五つの銀河の構造、星形成領域や星間物質の分布がこれまでにみたことも無い鮮明さで捉えられています。

とくに観測装置MIRIを用いて、波長7ミクロン-17ミクロンの中間赤外線の波長の画像は、お互いに近づいて影響を及ぼし合う銀河のガスとダストの分布が非常に興味深い構造を作り出している様子が克明に捉えられています。

さらに、NIRSpec の面分光装置では、詳細な波長スペクトルが得られ、このような相互作用銀河でどのように星形成や巨大ブラックホールの活動が進むのかを調べることができると期待されます。JWSTの装置の組み合わせは銀河の内部や周辺の星間物質の詳細な研究を可能にします。

山田 亨 / 2022年7月

「ステファンの五つ子」は、ペガスス座の方向に見える五つの銀河のことを指す。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、近赤外線分光器(NIRSpec)を用いて活動銀河核を詳細に調べた  (NASA, ESA, CSA, STScI)。

スペクトル観測からわかることは、銀河間の相互作用だけではありません。ウェッブ望遠鏡が遠くの恒星のまわりを公転する系外惑星の大気を通過してきた恒星の光のスペクトルを調べることで、その惑星の大気の組成を探ることが可能です。太陽系科学研究系のエリザベス・タスカー准教授は、この観測は系外惑星科学の全く新しい時代の扉を開いた、とコメントしています。

この数十年の間、私たちは何千もの系外惑星を発見してきました。そして今、その世界がどのようなものであるかを見るための装置を作っています。惑星の大気を通過した後の恒星の光を観測すると、光の一部の波長が大気に吸収されることで失われていることがわかります。この光の強さを波長ごとにプロットすると、惑星の「スペクトル」が得られるのです(WASP-96 bのデータを参照するとわかります)。

これはとても難しい作業ですが、失われた波長により、惑星の大気中にどんな分子が存在するかを知ることができます。これが惑星の環境や形成の謎を知る手がかりとなるのです。WASP-96bで得られたスペクトルは、これまで得られたスペクトルの中でも最も鮮明であり、太陽系外の惑星に関する全く新しい時代の知見への扉を開いたといえるでしょう。

エリザベス・タスカー(太陽系科学研究系 准教授)/ 2022年7月

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた高温の巨大ガス惑星 WASP-39bの大気組成(NASA, ESA, CSA, Joseph Olmsted (STScI))。

ウェッブ望遠鏡が発表した最初の系外惑星大気のスペクトルはWASP-96bのものでしたが、続いて観測されたWASP-39bでは系外惑星において初めて二酸化炭素が検出されました。河原創准教授は、二酸化炭素などの分子が特定の波長の光(つまり色)を吸収するので、その波長でみると大気が不透明となり惑星がわずかに大きく見えるということを説明しています。この効果を使えば、惑星のサイズを同定する方法としてこれまでよりもはるかに正確なものが入手できます。

JWSTは系外惑星大気の新しいスペクトルとそこに含まれる二酸化炭素のシグナルを発表しました。これは、大気に分子が含まれると、系外惑星のサイズに色による微妙な違いが出ることを利用した測定です。JWSTによるスペクトルをみると、惑星の半径を1%以下の精度で測定できていることがわかります。精密系外惑星科学(precision exoplanet science)の幕開けといった感じですね。

河原 創(宇宙物理学研究系 准教授)/ 2022年8月

WASP-96bとWASP-39bはどちらも巨大ガス惑星ですが、太陽系の木星と異なり主星にとても近いところで公転しています。ウェッブ望遠鏡による観測でWASP-39bの大気組成の詳細が明らかになり、巨大惑星がこのような主星に近い公転軌道上に存在する謎を解明するための手がかりが得られました。太陽系科学研究系の兵頭龍樹博士は、このような惑星が現在の軌道よりもはるかに主星から遠い場所で形成されたという重要な考えを裏付けるものとして、水の存在を指摘します。

寒ければ寒いほど、いろいろなものが凍ります。木星や土星のような巨大ガス惑星を作るためには、地球よりも遥かに多くの材料物質を必要とします。なので、巨大ガス惑星の形成を考えると、中心星から遠くて寒い場所の方が都合が良いと考えられれます。しかし系外惑星には、中心星のすぐ近くを回る巨大ガス惑星(ホット・ジュピター)が多く存在します。ホット・ジュピターの作り方として、中心星から遠い場所で形成してから、その後、近くに移動してくるという考えがあります。

この度、ホット・ジュピターであるWASP-39bの大気の化学組成がJWSTによって明らかになりました!その結果、WASP-39bは、水が凍るような寒い場所で形成され、現在の場所まで移動してきた可能性などが明らかになりました!このように惑星大気は、惑星がどこで形成され、どのように移動してきたのかを教えてくれるパワフルな情報を与えてくれます。JWSTはこれからも多くの系外惑星の大気を観測するでしょう。それによって、我々太陽系の木星や土星がどれくらい特別な存在なのか(さらに、生命を育む地球を持つ太陽系は特別なのか!?)も、系外惑星との比較を通して明らかになるでしょう。

兵頭龍樹(太陽系科学研究系 国際トップヤングフェロー)/ 2022年12月
1000を超える系外惑星の大気を観測するAriel ミッションの想像図 (ESA)。

惑星大気の組成は、欧州宇宙機関ESAが主導し日本も参加するミッション、Ariel(アリエル)によってさらに調べられることになっています。Arielはウェッブ望遠鏡の高感度観測を補完し、十分な数の惑星を調査して統計的な議論を可能とすることを塩谷圭吾准教授が説明します。

JWST による、系外惑星 WASP-39b の大気の素晴らしい観測結果が発表されました。私たちも、宇宙望遠鏡による系外惑星の大気観測という重要な科学目標を見据えて、ESAが主導する Ariel  (2029 年打ち上げ予定)に、開発と科学研究の両面から参加しています。Ariel望遠鏡は JWST より小型ですが、JWST とは異なり、トランジット法による系外惑星の観測に最適化された専用望遠鏡です。

Arielでは約 1000個もの系外惑星のサンプルを可視光と赤外線で同時に観測するので、本格的な統計的研究が可能になります。そして、系外惑星が何でできているのか、どのように形成され、どのように進化していくのか、を探究します。JWSTはその大口径とさまざまな観測装置によって、より小さな惑星や明るさの弱い星の周りの惑星をより高い感度で観測でき、また、系外惑星を直接撮像することもできます。ただし、観測できる系外惑星の数はAriel には遠く及びません。したがって、これらの 2つの宇宙望遠鏡は、系外惑星の観測において強く補完し合うことになります。

塩谷 圭吾(JUICE /GALA-Japan プロジェクトマネージャ)/ 2022年12月

未知の世界を見る

ウェッブ望遠鏡が系外惑星の分野で先陣を切っているのは惑星大気に関することだけではありません。明るい恒星の光を遮ることでその近傍にあるはるかに暗い天体を観測できるようにするコロナグラフが、NIRCam とMIRIの両方に装備されています。この二つの機器によるウェッブ望遠鏡として最初の系外惑星の直接撮像の成果、HIP 65426 bの画像が9月に公開されました。塩谷准教授は、これは、大気分光観測に加えて、太陽系外惑星についての我々の知見に革命をもたらす観測技術のデモである、と話します。

ウェッブ望遠鏡に搭載のNIRCamと MIRIによる、太陽系外惑星HIP 65426bの直接撮像画像 (image: NASA, ESA, CSA, Alyssa Pagan (STScI), science: Aarynn Carter (UC Santa Cruz), ERS 1386 Team)。

NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が、この望遠鏡では初めての、太陽系外惑星の直接撮像に成功しました(この惑星は巨大ガス惑星で、地球型惑星ではありません)。現代最高の性能を持つジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、今後の観測で太陽系外惑星について多くの知見をもたらすでしょう。

一般に、太陽系外惑星とその主星を空間分解する直接観測では、惑星に比べて圧倒的に明るい主星の存在が大きな障壁になります。しかし、主星の光を大幅に抑制する装置を搭載した将来の宇宙望遠鏡を実現することで、直接観測は生命を宿し得る地球型惑星の特徴を調べる有力な手法となります。今回の観測結果は重要な成功であると同時に、出発点でもあります。

塩谷 圭吾 / 2022年9月

NASAの主導するナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡(JWSTではなかった日本からの貢献が、この次世代大型宇宙望遠鏡においては実現します)は、2020年代に打ち上げを予定していて、より高性能のコロナグラフでさらなる直接撮像を行うことになっています。

新たな姿をみせた太陽系の仲間たち

ウェッブ宇宙望遠鏡は、初期の銀河から太陽以外の恒星の周りにあるまだ見ぬ世界まで、地球からはるか遠く離れている天体を調査する能力を証明しました。それらに加え、はるかに近い場所、私たちの太陽系の中にある対象についてもウェッブ望遠鏡の実力が大いに発揮されています。

ウェッブ望遠鏡のNIRCamが捉えた木星系。2種類のフィルター(オレンジとシアン)からの合成画像 (NASA, ESA, CSA, Jupiter ERS Team; image processing by Ricardo Hueso (UPV/EHU) and Judy Schmidt)。

8月、ウェッブ望遠鏡は赤外線による木星の画像を公開し、太陽系科学研究系のジェームズ・オダナヒュー博士が以下で説明するように、木星大気の驚くべき詳細を明らかにしました。

私は、画像でみえている雲の数千キロメートル上にある上層大気を研究しています。 JWSTでは木星の上層大気に広がる赤外線のオーロラを見ることができます。 木星の東側の周縁部には細い影が入っていて、その上には弧を描くように光る大気が見えています。その起源については議論がありますが、私は「大気光」と呼ばれるもので、上層大気からくるものだと確信しています。国際宇宙ステーションからのハイビジョン画像や動画には、普段から地球の大気光は記録されていますが、木星からこの距離でも見ることができるというのは、ただただ驚きです。この画像は私が最も好きな木星画像の一つになりました!

ジェームズ・オダナヒュー (太陽系科学研究系 国際トップヤングフェロー)/ 2022年8月 

ウェッブ望遠鏡の近赤外線撮像装置(NIRCam)による海王星の画像 (image: NASA, ESA, CSA, STScI; image processing: Joseph DePasquale (STScI), Naomi Rowe-Gurney (NASA-GSFC))。

続いて9月には、リングに囲まれたこれまでとは違う海王星の姿が公開されました。土星以外のリングはめったに見ることがありませんが、兵頭龍樹博士は、巨大惑星においては実はリングがあることが普通である、ということを説明します。

リングと言えば土星!と思われるかもしれませんが、木星、天王星、海王星もリングを持っています。今回、人類が新たに手に入れた「眼」であるJWSTが、海王星のリングを捉えました。土星のリングとは全然違い、とても細いリングが特徴的ですね。リングは惑星が作られるときに、その副産物として形成されたと考えるのが自然です。なので、それぞれの惑星が全く違ったリングを持つということは、それぞれの惑星が違った環境や条件で育ったことを意味しています。太陽系の惑星の歴史を知るために、リングはとても興味深い研究対象です。

兵頭 龍樹 / 2022年9月 

世界中に伝える

打ち上げ後に完璧な望遠鏡の展開が無事になされてからこれまで、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は新たな宇宙の姿を捉え、それを私たちが目にすることができたという点で素晴らしい1年であったと言えます。この新しい望遠鏡の歩みが共有されるためには多大な努力があり、そのおかげで新たな宇宙の理解を獲得する冒険を誰もが体験することが可能となっています。

JWST (ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)がとらえた初期の画像とスペクトルの情報がすぐに公開されたのは素晴らしいことだと思います。JWSTのチームは以前、打ち上げ後の望遠鏡が機器を展開し、キャリブレーションなど準備を整える様子も公開しています。JWSTのチームはサイエンスコミュニケーションという観点でも卓越していて、工学的な複雑さやリスクなどの情報を公開することで、ミッションが経験する緊張感やドラマ性を一般の人々に共有し、人々に自分もミッションを見守っているのだと感じさせてくれました。ですので、先週公開された画像や成果のすばらしさに多くの人が感動したのではないかと思います。

ジェームズ・オダナヒュー / 2022年7月 

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


”海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク:

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡 ウェブサイト (外部リンク)

ウェッブ望遠鏡、ペアの恒星が宇宙空間へ放出したダストのリングをとらえる (宇宙科学研究所 研究成果2022年10月13日)

Ariel 宇宙望遠鏡 ウェブサイト(外部リンク)