海外の宇宙ニュース:地球を守るDARTミッションを追え!

衝突まで17日

2022年9月上旬、世界中の科学者たちは、ある重要な問いに向き合っていました。万が一、必要に迫られたら、、地球上の生命が危機にさらされるとしたら、、私たちは地球を守れるのだろうか?それを見極めるときが来たのです。

吉川 真 准教授

もうすぐプラネタリー・ディフェンス(地球への天体衝突に関する活動)にとって画期的な実験が行われます。NASAの探査機DARTが小惑星Didymosの衛星Dimorphosに衝突して、その軌道がどのくらい変わるのかを調べるのです。地球に衝突するような天体が発見された場合、その軌道を変えて地球衝突を避けたいわけですが、今回の実験によってそのための基礎的なデータが得られることを期待しています。この実験を目撃するのがイタリアが開発したLICIACube。どのような情報を送ってくるのか楽しみです。

吉川 真(「はやぶさ2」 ミッションマネージャ(元))

これは、NASAのダブル・アステロイド・リダイレクト・テスト(DART:ダート)ミッションの探査機が、連星系である二つの小惑星のうち小さい方に計画して衝突する、という強烈なフィナーレを迎えるにあたっての期待や不安とも言えます。小惑星ディディモスの周りをまわる小惑星ディモルフォスの軌道が探査機の衝突によって変化すれば、将来同じ方法で地球に向かってくる小惑星を遠ざけることができることの実証になります。

DARTに続いては、JAXAが開発した熱赤外カメラも搭載する欧州宇宙機関(ESA)主導のHeraミッションが予定されています。Heraは2024年度の打ち上げを目指していて、ディディモスとディモルフォスの小惑星連星系に到着すると、DARTの衝突によってどういう変化が起きたのかを分析することになります。

この二つは、複数の宇宙機関の国際協力によって取り組まれる世界初のプラネタリー・ディフェンス・ミッションです。DARTの衝突への緊張が高まる中、JAXA宇宙教育センターはプラネタリー・ディフェンスの専門家たちを集め、ウェビナーを開催しました。

プラネタリー・ディフェンスは、科学者やエンジニアがともに地球規模の問題に取り組む国際協力の良い例です。JAXAアカデミーでは、人々(主に学生さん)に、このような地球規模の問題や気候変動などに関心をもってもらうことを促すことを目的とし、多くの人が巻き込まれることになる課題を紹介しようとしています。

北川 智子(JAXA宇宙教育センター長)

北川JAXA宇宙教育センター長のコメント全文はこちらから

日本、ヨーロッパ、アメリカの研究者らが、壊滅的なダメージをもたらす可能性のある天体の衝突から地球を守るための世界各国でのミッションや取り組みについて議論し、多くの人が耳を傾けました。どのアプローチがより重要だとされたのでしょうか?危険を及ぼす小惑星の特定(NASAが提案するNEO Surveyorミッション)か、地球に衝突する確率が高い小惑星の特性を知ること(はやぶさ2#拡張ミッション)か、それとも宇宙の岩を地球へ向かう軌道から外す実験に関すること(DARTおよびHera)でしょうか。答えはもちろん、これらすべてが欠かせないものであり、国際的な取り組みの重要性が強調され過ぎることはないということです。

北川 智子 博士

衝突まで14日

プラネタリー・ディフェンスをテーマにしたウェビナー開催から3日後、DARTから靴箱ほどのサイズの小さな探査機が切り離されました。イタリア宇宙庁(ASI)が担当したLICIACubeは、DARTの旅の最終局面、つまりDARTが小惑星に衝突する瞬間の画像を撮影することになっていました。

ASIのLICIACubeによって撮影された、NASAのDARTと小惑星ディモルフォスの衝突から数分後の画像(ASI / NASA)。

小惑星リュウグウへの「はやぶさ2」などのミッションが明らかにしたように、小惑星とは硬い天体ではありません。典型的には、がれきの集合体ともいえる物体です。このような構造は衝突時に歪んだり物質が放出されたりするため、その結果生じる動きの変化を予測することがとても難しいのです。そのため衝突の瞬間の詳細を知ることが待ち望まれていますが、衝突で破壊されてしまうDART自身では記録することができません。それを解決したのが、小さなLICIACubeでした。

尾崎 直哉 テニュアトラック特任助教

イタリアの開発チームの皆さん、LICIACubeの放出とファーストボイスの受信おめでとうございます!深宇宙探査で超小型宇宙機やキューブサットが続々と使われる世界になってきました。これから打ち上がるアルテミス1でも、数多くのキューブサットが実証されると思いますので、ぜひご期待ください。

尾崎 直哉(宇宙機応用工学研究系 助教)

衝突時に別の機器で記録する、というのは「はやぶさ2」でも小惑星リュウグウに人工クレーターを作る際にも行われました。SCIと呼ばれる小型の衝突装置が採用され、主探査機(はやぶさ2)自身は、衝突実験時に小惑星から放出される破片などによる損傷を避けるために小惑星の背後に退避しました。そこで、衝撃の瞬間を目撃するための展開型カメラが主探査機から切り離されたのでした。宇宙探査において小型探査機は、特に高コストである大型探査機がリスクを取ることが難しい場面で、科学データを集めるための有用なツールとなりつつあります。

衝突の日

Heraの科学リーダーでありフランス国立科学研究センター(CNRS)研究主幹のPatrick Michael博士は、DARTミッション管制室にて「DARTを小惑星ディモルフォスに衝突させることは、ヨーロッパとアメリカの科学者の20年にわたる努力の結晶だ」と振り返っていました。ですが、何年もかけて計画し準備してきたにもかかわらず、チームはこれから何が起こるかほとんど予測できませんでした。

専門家とそうでない人とで、これから起こることに対しての知識レベルが同じだったのは、宇宙ミッション史上初めてではないかと思います。ディモルフォスについては、その大きさ以外の情報は何もありませんでした。球体なのか長細いのか、表面は岩がむき出しなのか石で埋め尽くされているのか?私たちは、長年、そういったことを知りたかったのです。

Patrick Michael (Heraミッション・科学リーダー)

DARTのカメラにディディモスが映し出された瞬間のPatrick Michael博士(写真中央)(Harrison Agrusa, メリーランド大学)。

まずディディモス、そしてより小さいディモルフォスと、両小惑星の形と表面の様子がDARTのカメラにはっきりとらえられたのは、衝突の直前のことでした。Michael博士は感慨深いものがあったと振り返ります。

衝突直前のほんの数分まで待つだけの時間が経過しました。そして、楕円形の天体が見え始め、あっという間にその表面が丸石で埋め尽くされているのが見えたと思うと、衝突しました。今まで見たことのない新しい世界を発見したような感覚で、クレイジーでした。20年前の夢が現実になった瞬間、私はこれまでにない叫び声をあげていました。最後は何人かが涙を流していましたね。

Patrick博士のコメント全文はこちらから

日本時間9月26日8時14分、DARTがディモルフォスに秒速約6.6キロメートルの速さで衝突しました。探査機から送られた最後の画像では、画面が赤くなる前、丸石や岩が並ぶ岩場の風景を映し出しました。探査機の速度があまりにも速いため、両小惑星に近づいてからの最終段階では、ディモルフォスとディディモスを識別することも含め、完全に自動制御をする必要がありました。これを可能にした驚くべき技術は、軌道偏向そのものと同じくらい大きな感動をもたらしました。

DARTによるディモルフォスへの衝突実験は、私にとってもまさに“衝撃“的であった。一瞬で成否を分けるようなクリティカルイベントにおいて、探査機の自律機能に全幅の信頼を置いて航法誘導制御を行い、深宇宙にいる非協力物体にkm/sオーダーの速度で衝突させる技術には脱帽である。

はやぶさ2#でも2026年に小惑星フライバイというワンチャンスイベントが控えている。探査機が直接衝突するわけではないが、km/sの速度で通り過ぎざまに、小惑星の姿が捉えられるよう自律機能を充実させ、必ず成功させると決意した瞬間となった。

三桝 裕也 (はやぶさ2 航法誘導制御担当)

衝突のその後

DARTがディモルフォスに衝突してから数分後、LICIACubeがその近くを飛行し、衝突した場所から飛散するイジェクタの噴煙の画像を撮影しました。これはミッションにとって二つ目の成功であり、キューブサットの威力を物語るものともなりました。

LICIACubeチームの皆様,おめでとうございます!想像以上に凄い衝突の瞬間の画像が撮影されていて、感激しています。はやぶさ2のSCI実験のときもDCAMが活躍をしてくれました。このようなリスクの高いミッションは、超小型探査機の良い活用例ですね。今後のLICIACubeの報告を楽しみにしています!

尾崎 直哉(宇宙機応用工学研究系)

南米チリにある米国科学財団(NSF)国立光赤外線天文学研究所 のSOAR望遠鏡を使用する天文学者らが、2022年9月26日にNASAのDART探査機が小惑星ディモルフォスに衝突した際に、表面から吹き出した膨大な塵や破片の噴煙を撮影。この画像では、太陽の放射圧で押し流された噴出物が、彗星の尾のように、画像中心部分から右端まで1万キロメートル以上にわたって伸びているのがわかる (NOIRLab)

“現場”での画像に加えて、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡は、同じ対象を同時に観測するのは史上初だったのですが、衝突噴出物を撮影することにも成功しました。さらに地上望遠鏡の準備も万端で、太陽の放射圧に押されて1万キロメートル以上にもわたって彗星の尾のように広がるデブリの跡の驚くべき画像を提供してくれました。これらはDARTミッションの成功を物語るとともに、私たちがそこから学べることの手がかりを提供してくれます。

LICIACube や地上・宇宙望遠鏡からの観測(今後も含めて)によって、DART探査機が衝突した衛星ディモルフォスが衝突によってどのようなサイズ分布をもった粒子が放出されて、またそれかから、ディモルフォスがどのような砂・石のサイズ分布で構成されていたかが推測できるのではと期待しています。特にLICIACube の画像は私が管理する衝突実験施設であるユーザーさんがおこなった実験を彷彿とさせるものででした。 

長谷川 直(太陽系科学研究系)

小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)がとらえた、小惑星ディモルフォスに衝突するDART探査機 (ATLAS)。

そして私たちには、Heraミッションで小惑星に戻り衝突現場を間近に見るという前例のない機会もあります。DARTによってディモルフォスの表面に与えられた損傷の規模を知ることで、小惑星の強度に関する情報を得たり、危険な天体の軌道を逸らすために必要なことを見積もるための計算精度を向上させることも出来るでしょう。

小惑星DimorphosへのDARTの衝突は大成功! 文字通りにダーツは「命中」し、大規模なイジェクタの放出が子衛星LICIACubeやATLASの観測によって確認されました。

惑星科学的な注目点は、小さな100メートル級の小惑星が一枚岩なのか、それともイトカワ、リュウグウなどと同様にラブルパイル(瓦礫の寄せ集め)なのかということでした。DARTの最接近時の画像から得られたその結果は、ラブルパイルでした。摩擦がほとんどなく、破片が緩く集まっている状態です。リュウグウで衝突装置SCI(重量2kg、速度2km/s)の衝突で直径10m以上のクレータができたことを考えると、DART(重量500㎏、速度6km/s)の衝突によって、想像を絶するカタストロフィックなことが起きたかもしれません。その答えはHeraが出します。Heraの観測に乞うご期待!

岡田 達明(太陽系科学研究系)

未来への希望

日本時間2022年10月12日、NASAはディディモスの周りをまわる小惑星ディモルフォスの軌道が探査機DARTの衝突後に変化したことをアナウンスしました。地上の望遠鏡で検出できるためには、DARTの衝突により12時間というディモルフォスの公転周期を少なくとも73秒は変化させる必要がありました。実際には、ディモルフォスの公転周期は32分短縮されたことが確認され、当初の目標は良い意味で打ち砕かれました。

DARTが衝突したディモルフォスの軌道周期が30分以上変化したことを確認したと報道された。衝突直前までの画像を見る限り、DARTが計画通りに小惑星に衝突したことに疑いの余地はなかったが、軌道周期の変化によって、改めて今回の実験が成功裏に終わったことが証明されたことになる。この成果は、特にPlanetary Defenseの分野において、新たな歴史の1ページを刻んだと言って過言ではない。同じ道を志す一人として、この偉業達成に貢献された全ての関係者の皆さんに、心よりの賛辞をお送りしたい。

三桝 裕也(「はやぶさ2」 航法誘導制御担当)

主探査機と2機のキューブサットからなるHeraミッションの想像図 (ESA/Science Office)。

小惑星の軌道は驚くほど変化しましたが、衝突の直後に大量のデブリ(破片)が観測されたことを考えると、それほど驚くことではないのかもしれません。あるいは、小惑星の性質が予想と違っていたため、より大きな変化があったのかもしれません。

DART探査機の衝突によって小惑星Dimorphosの公転周期の変化がかなり大きかったようです。 衝突によって放出された物質の量が事前の予測よりも多かったためかもしれません(彗星のようなダストテイルが生じているのが観測されています)。 一方で衝突直前の近接画像から分かったように、Dimorphosは瓦礫の寄せ集め(ラブルパイル)で隙間の多い構造のようですので、 Dimorphosの質量が想定より小さかった(密度が低かった)かもしれず、衝突による影響が大きく出たのかもしれません。 事後に訪れるHeraによって明らかになるでしょう。

岡田 達明 (太陽系科学研究系 准教授)

DARTミッションの成果をさらに追求し、小惑星の軌道を逸らすことや小惑星そのものについてより理解を深めていくことで、人類は自らを救う可能性を持っていることを理解するようになるでしょう。

DARTの衝突によって、小惑星ディモルフォスの軌道がかなり変化しました!LICIACubeや望遠鏡の観測を見ると非常に多くの物質が放出されたようなので、このような大きな軌道の変化があったのだと思われます。DARTの実験によって、小惑星の軌道を変えることができることが証明されました。つまり、十分な時間の猶予さえあれば、小惑星の地球衝突を避けることができることになります。望遠鏡による今後の観測やHera探査機によるデータが得られれば、プラネタリーディフェンスにとって更に何が必要なのかの検討ができることでしょう。

吉川 真(「はやぶさ2」 ミッションマネージャ(元))

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


”海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク:
DART ミッション ウェブサイト (外部リンク)
Hera ミッション ウェブサイト (外部リンク)
JAXA アカデミー
はやぶさ2 ミッション ウェブサイト