海外の宇宙ニュース:COMET INTERCEPTORミッションが正式に採択

6月8日、欧州宇宙機関(ESA)は、Comet Interceptor (コメット・インターセプター)ミッションの検討段階が終了し2029年の打ち上げを目指して正式に製造組み立てを開始することが承認されたと発表しました。Comet InterceptorはESAが主導、JAXAも参加するミッションで、ISASのComet Interceptorチームはこのニュースを心待ちにしていました。

Comet InterceptorミッションがESAの中で正式に採択されました!JAXAは本ミッションに約30kgの超小型フライバイ探査機を提供する計画を立てているので、検討チームの一員として,ESAの中で正式に採択されたことを大変嬉しく思っています。

尾崎直哉(宇宙機応用工学研究系 テニュアトラック特任助教)

Comet Interceptorミッションは親機と2機の子機(キューブサット)からなり、子機のうち1台をJAXAが設計、製造担当することになっています。このちょっと変わったミッション構成は、これまでは間近で観測することができなかった長周期彗星と呼ばれる希少な天体を追跡観測するために設計されています。

長周期彗星は、太陽の重力圏の端にあるオールト雲と呼ばれる天体群を起源とする彗星です。普段私たちが目にする彗星のほとんどは、冥王星があるカイパーベルトという領域から飛来し、その公転周期は200年未満です。カイパーベルトが太陽―地球の距離の30倍のところから始まっているのに対し、オールト雲は2000倍から10万倍も離れているのです。

そんなに離れたところからやってくる来客なので、私たちのそばを通過する際に間近で見るチャンスは、何十万年間に一度しかありません。Comet Interceptorの三台のモジュール設計の目的は、彗星の核とコマ(彗星が太陽に近づいたときに観測される、彗星頭部が明るく広がった領域のこと。核から放出されたガスとダストで構成されている)を3つの視座から多角的にとらえることによって、彗星との遭遇するほんのわずかな間に集める情報を最大限化することです。

太陽系の彗星の出生地のイラストレーション。太陽から30から50天文単位(=AU、地球―太陽間の距離)の距離にあるカイパーベルトと、太陽から10万AUのところにあると考えられているオールト雲。(ESA)

長周期彗星をとらえるのは簡単ではありません。オールト雲はあまりに遠く直接観測ができませんし、飛来する彗星は探査機を打ち上げるだけの時間的余裕をもって発見されることがありません。そういった点でComet Interceptorは独自のミッション設計になっているのだと、尾崎直哉 テニュアトラック特任助教は説明します。

Comet Interceptorは、太陽と地球のラグランジュ点で待機し、未だ見つかっていない長周期彗星が見つかったら直ぐに探査しに行くような”即応型フライバイ探査ミッション”になっています。このような長周期彗星は、太陽からの熱を殆ど受けておらず、水氷や有機物をたくさん含んだ”太陽系の始原的な状態”が保たれているという、非常に面白い天体です。

Comet Interceptorは地球に近く軌道が安定した場所(ラグランジュ点)で待機することで、内側太陽系を初めて旅する長周期彗星を捉えることを目指しています。オールト雲が太陽からはるか遠くにあることから、太陽系の内側を初めて旅する長周期彗星は、その一生はおそらく最も冷え切った状態にあったはずです。これは、太陽や惑星が形成された頃の岩石や氷がそのままの組成で保たれていることになります。希少な長周期彗星とその他の小天体を比較すれば、太陽系内にいる間に物質がどのような変化を遂げ、最終的にどのような物質が地球のような惑星を形成することになったのかを知る手がかりを得られます。

またComet Interceptorにとっての面白いターゲットとしては、実は、‘Oumuamua(オウムアムア)のような恒星間天体があります。長周期彗星と同じように太陽系外から飛来する小天体は動きが早く、発見してから探査機を打ち上げるのでは間に合いません。Comet Interceptorは待ち受けるという戦略をとることで、科学的に最もエキサイティングなターゲットに備えることができるのです。

Comet Interceptorのイラストレーション。 (Geraint Jones, UCL Mullard Space Science Laboratory)

新発見に即座に対応できるような小型の待ち受け型ミッションの必要性は、はるか遠くからの来客の探査に限ったことではありません。こういったミッションコンセプトで、地球に衝突する危険がある小天体を調べるということも可能になり得ます。尾崎助教は、このようなミッションの開発はJAXAや海外機関にとっても重要な意味を持つと指摘します。

その理学的価値は去ることながら、JAXAでは、Comet Interceptorの超小型探査機開発をきっかけに、超小型探査機による挑戦的なミッションをジャンジャン繰り広げようとしています。実は、Comet Interceptorのような即応型ミッションのニーズは、小惑星衝突の脅威から地球を守る”プラネタリーディフェンス”の分野でも注目されていて、「どこで・どのように待機するのが効率的か?」を世界各国が考えています。即応型のフライバイ探査を、今後の小天体探査プログラムの一翼として、JAXAとしても日本流の”即応型フライバイ探査”による面白いミッションを仕込んでいこうと企んでいます。

Comet Interceptorは、ESAとJAXAの共同ミッションの中では最も新しいものです。JAXAとESAの共同ミッションには、2018年に打ち上げられた国際水星探査計画「BepiColombo」があります。BepiColomboはComet Interceptorのように複合型探査機ですが、より規模が大きいもの、すなわち、それぞれの宇宙機関が設計した2機の水星周回探査機からなります。ESAの探査機は水星の表面と内部を、JAXAの探査機は水星の磁場と太陽風との相互作用について、それぞれ調査することになっています。小川博之教授は、JAXAの水星磁気圏探査機「みお」をロシアの大型輸送機でフランス領ギアナの射場まで輸送したときのことを振り返ります。

BepiColomboは初のESAとJAXAの国際共同水星探査で、JAXAの「みお」をESAのモジュールに水星まで運んでもらい、水星周回軌道上で分離してもらいます。Comet Interceptorと同じ構図ですね。

「みお」はオランダにあるESAの研究所「ESTEC」から、南米ギアナにあるアリアン5ロケットの射場「CSG」まで、ESAがチャーターしたアントノフAn-225という世界最大のロシアの輸送機を使用して運んでもらいました。2018年5月のことです。私はこの輸送に付き添いました。

一緒に行ったESAの人からは事前に、「トイレが汚いから入る気がしない」「飯がまずい」「椅子がほとんど壊れている」「うるさくて乗り心地は最悪」などと脅かされ、乗る前は不安でいっぱいでした。

実際乗ってみると、そんなことはなく、トイレはきれいでしたし、椅子は座れるのがありましたし、乗組員特製のミネストローネスープは絶品で、乗り心地も気にならずとても快適でした。残念だったのは、窓が無くて外の様子がわからなかったのと、アルコール飲料が飲めなかったことくらいです。

一緒に行ったESAの人はトイレにもいかず、ご飯も食べなかったようですが。

小川博之 (BepiColombo「みお」 プロジェクトマネージャ)

「はやぶさ」「はやぶさ2」、そして計画中の深宇宙探査技術実証機DESTINY+、火星衛星探査計画(MMX)といった小天体探査ミッションにおいて優れた実績と高い専門性を誇るJAXA宇宙科学研究所にとって、Comet Interceptorはまさにうってつけのミッションだったのです。藤本正樹 宇宙科学研究所副所長は、両宇宙機関の連携が未来に向け新たなアイデアの原動力となることについて、次のようにコメントしています。

ESAには、67P/C-G彗星の探査を成功させたロゼッタ計画からの、長期で大型の計画をしっかりと実行する好印象がありました。そのESAが、Fクラスを立ち上げる際にはISASを参考にしたいということで、WSに何度か呼ばれていたのでした。その経緯もあったので、Comet Interceptor の提案書を読んだ時は「げ。これ、ISASでやるべきミッションやんけ。」との思いは隠せませんでした。ということで、この計画へ日本から貢献できるように準備を進めていますし、小型機を小天体探査に活用していくのだという体系的な考え方も生まれています。小天体はたくさんある、いろいろと探査したい、だったら小型機の活用は当然だよね~、尾崎さん?

藤本正樹 (JAXA宇宙科学研究所 副所長)

Comet Interceptorがマルチモジュラー型小型探査機の設計であることを活かして長周期彗星を追跡する時、私たちはどういう科学的発展を期待できるのでしょうか?「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星サンプルの分析チームを率いる臼井寛裕教授は、リュウグウ試料の分析から得られた新たな発見によって、さまざまに分類されてきた小惑星や彗星について、今後私たちの見方を変える必要が出てくるかもしれない、と話します。

「はやぶさ2」によってもたらされたリュウグウ試料には多様な含水鉱物・有機物が含まれていることが分かり、同様な特徴をもつ彗星との発生学的な関連性が示唆されています。もしかすると、小惑星や彗星の定義の再考が迫られるかもしれません!彗星サンプルリターンがこの問いの答えを与えてくれるでしょう。Comet Interceptorは新しい時代の彗星サンプルリターンの嚆矢となることが期待され、地球外物質のキュレーターとしてComet Interceptorを熱烈に応援しています。

臼井寛裕 (太陽系科学研究系 教授)

系外惑星が見つかり太陽系の探査も進む今、恒星のまわりを回る大小さまざまな天体の世界に関する謎を、すっきりと紐解くような時代がくることを期待していいのでしょうか?

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


”海外の宇宙ニュース” シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク:

Comet Interceptor ウェブサイト(外部リンク)

水星磁気圏探査機「みお」ウェブサイト

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