ベピ・コロンボの二回目の金星スイングバイは、高度550KMをかすめるもの

(動画):2021年8月10日にベピ・コロンボ探査から見た二度目の金星のスイングバイの想像図。視野は60度で、ベピ・コロンボにもし人が搭乗して金星を見たらどのように見えるかを表している。スイングバイの際上から見下ろした様子を縮尺通りに表した。 (JAXA / O’Donoghue)。

本日(8月10日)日本時間22:48、ベピ・コロンボ探査機は金星に550kmまで接近するスイングバイを行います。7年間をかけて水星へと向かう探査機は、金星の重力の助けを借りながら2025年末に水星を周回する軌道へと辿り着こうとしているのです。

これは昨年10月に続く、二度目の金星への大接近です。スイングバイは水星へと向かう軌道変更に必須ですが、同時に、科学チームにボーナスデータを獲得するチャンスも与えてくれます。

水星周辺のMIOの想像図 (JAXA)
村上豪 助教

いよいよBepiColomboが2回目の金星スイングバイ! 今回は1回目に比べて20倍も近い高度約550kmを通過し、「みお」は金星高層から宇宙空間へ散逸する大気の観測を試みます。そして今回のスイングバイによって、いよいよBepiColomboは水星へと舵を切り、10月には最初の水星スイングバイを迎えます。ますますBepiColombo、そして「みお」から目が離せません!!

村上豪 (BepiColombo プロジェクトサイエンティスト 助教)

ベピ・コロンボ計画は二つの探査機からなり、水星へは二つが積み上げられた状態で輸送されます。探査機のひとつは、太陽系最内縁にあって太陽からの強い太陽風を受け止める水星磁気圏を探査するJAXAによるMIO、もうひとつは、水星本体(表面の地質や内部構造)を探査するESAによるMPO(Mercury Planetary Orbiter)です。

水星までの道中、さまざまな観測が行うことができて大変うれしく思います。今回の金星フライバイも「あかつき」「ひさき」と同時観測が行われるほか、
ESAのSolar Orbiterの金星フライバイの1日後にBepiColomboの金星フライバイということで、また新たな知見が得られることを楽しみにしています。熱制御系エンジニアとしては、前回の金星フライバイよりもかなり金星に近いところを通るということで、「みお」の温度変化がどうなるかも大変楽しみです。

小川博之 (ベピコロンボ「みお」 プロジェクトマネージャ 教授)
小川博之 教授
ベピ・コロンボ探査機の二つの探査機が積み上げられた状態で水星へと向かう様子。二つの探査機の下に、太陽電池を拡げイオンエンジンを動作さる輸送機(Mercury Transfer Module)が見える。真ん中にあるのがESAのMPO、一番上にあるJAXA・MIOは太陽光シールドの中にある(ESA)。

地球や水星と異なり、金星には固有磁場はありません。そのことが、MIOにとって金星スイングバイ時の観測を面白くないものとしているのでしょうか?

「そんなことはないです。」とベピ・コロンボ計画のJAXA側プロジェクト・サイエンティストである村上豪は言います。「金星のような非磁化惑星とも太陽風は相互作用をするので、それを観測するチャンスとなります。ここで得られる知見は、系外惑星にも固有磁場を持たないものがあるでしょうから、そこでの状況を考える上でも重要です。」

磁場を持たない惑星でも、上層に電離層があることで太陽風の流れを邪魔し、その惑星の周囲に磁気圏を形作ることができます。このような相互作用と、固有磁場があるケースとの比較から、状況に応じて惑星の大気や表層環境がどのようにして中心星からの高エネルギー粒子の照射から保護されているのか、ということへの理解を深めることができます。

最初のスイングバイでは、MIOは金星大気起源のイオンを金星の夜側磁気圏(尾部)において検出し、金星大気が太陽風との相互作用により散逸される様子を見ることができました。このような観測は、NASAのPVO(Pioneer Venus Orbiter)によるものが少数例あるだけで、MIOはスイングバイ時の観測によって小さくない知見の追加を行いました。

二回目のスイングバイはより低高度へとアクセスするので、MIOは金星のイオンが逃げ出し始めた地点の様相を窺うことが可能となるかもしれません。.

BepiColombo の2回目の金星フライバイは、地球から見て金星の前を通り過ぎます。「ひさき」衛星と同じ側の金星観測データで、どのような比較研究ができるか楽しみです。得意なモニタリング観測で「みお(BepiColombo)」の大冒険を見守ります。

山崎敦 (ひさきプロジェクトマネージャー 助教)

また、一回目のスイングバイ時には、ベピ・コロンボMIO、金星探査機・あかつき、そして、極端紫外線で惑星大気を地球周回軌道から観測する宇宙望遠鏡・ひさきの3つのJAXA宇宙機が、金星大気を同時観測しました。

このキャンペーンは、二回目でも繰り返されます。MIOが金星大気の「その場」観測をすると同時に、ひさきは金星高層大気の時間変化をモニターします。MIOのスイングバイ時にあかつきは金星の反対側にいますが、MIOが通過する領域を数日前には観測しており、そのことからのデータ比較には興味が持たれます。

山崎敦 助教

前回のBepiColomboの金星スイングバイでは3機のJAXA衛星による共同観測がとてもうまくいきました。多点における観測は、時間的な変化と空間的な変化を分離する有効な手段です。引き続いての今夏の金星スイングバイでも素晴らしい成果を比較できることを、あかつきの責任者として期待しています。

中村正人 (あかつき 後期運用チーム責任者 教授)

初回と違い、二回目のスイングバイではダストを観測する装置MDM(Mercury Dust Monitor)が稼働します。村上によれば、必ずしも金星スイングバイ時でダストが検出されると思っていないものの、この後に続く第一回水星スイングバイへの準備になるとのことです。

「MDMによる水星でのダスト環境計測は重要です。そのリハーサルをやるといった感じです。」

中村正人 教授
(動画):水星への長い道のり。スイングバイを、地球で1回、金星で2回、水星で6回
(JAXA/村上豪)

水星周回軌道に辿り着くまでに、ベピ・コロンボは水星を6回フライバイし短時間の観測を実施します。今回の二回目の金星スイングバイからそれほど期間をおくことなく、最初の水星スイングバイは今年10月に行われます(いよいよです!)。そして2025年12月には、二つの探査機は分離され、それぞれの水星周回軌道へと挿入されます。それまでの旅路においても、科学観測は行われていきます。

関妙子

ベピコロンボが宇宙を旅して約3年、やっと水星に向かって舵を切るときがやってきました。楽しみな気持ちともに、まだ4年あると思うと、改めて水星へ向かうことの大変さを実感します。運用チームはすでに10月の最初の水星フライバイの準備を始めています。引き続き応援よろしくお願いします!

関妙子 (「ベピコロンボ」プロジェクトチーム ミッションマネージャ代理)

スイングバイ当日のBepiColombo接近の数時間前、徐々に暗くなる空に金星が現れ、地平線に沈みゆくのを見ながら「みお」にむかって「Good Luck!」と言うチャンスがありました!

JAXA宇宙科学研究所(相模原キャンパス)から、金星(三日月の左上方向)が沈んでゆく様子。 (JAXA/村上)

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:藤本正樹)


関連リンク:
水星磁気圏探査機「みお」ウェブサイト
金星探査機「あかつき」ウェブサイト
宇宙望遠鏡「ひさき」ウェブサイト