木星氷衛星探査計画「JUICE」搭載:
可視分光映像カメラ JANUS

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木星氷衛星探査計画 /ガニメデ周回衛星 「JUICE」は欧州宇宙機関(ESA)が主導するミッションで、装置開発とサイエンスチームの両方に日本も大きく関わっています。日本が関わるJUICE搭載機器について、一つずつ詳しく解説しています。ミッションの概要についての記事は [こちら]です。

文:春山 純一(JANUS-Japan主任研究者)
JANUS 可視分光映像カメラ 概要書


JUICE搭載可視分光カメラ JANUS (Tatiana Boretti/Synthesis).

JANUS (Jovis, Amorum ac Natorum Undique Scrutator)は、木星氷衛星探査(JUICE)ミッションに搭載される、可視13域の複数バンドのデータを得るカメラシステムで、木星の大気情報や、ガリレオ衛星(中でもガニメデ)の地形・地質情報を取得して、
①惑星形成と生命出現の条件は何か
②太陽系環境が変動する仕組みはどのようなものか
の理解をめざします。

JANUSの仕様は、以下のようなものです。
開口径: 116 mm
焦点距離: 467 mm
画角: 1.29° x 1.72° (along track x across track)
検知器:CMOS 1504 x 2000 画素
画素サイズ: 7 x 7 µm2
解像度: 7.5 m/画素 (500 km上空から)
撮像波長域、バンド数: 340 – 1080 nm、13バンド

JANUSは、木星衛星の地表を、これまでより1桁高い解像度で、より広域に観測することになります。木星衛星の一つであるガニメデは、暗く溝(Groove)で覆われた領域と、比較的明るい領域に分かれています(二分性といいます)。クレーター密度の解析によって、明るい地域は暗い地域よりも新しく形成されたことが分かっています。しかし、いつどのようなメカニズムでこのような表面の二分性が誕生したのかについては、さまざまな研究がなされているものの、詳しいことは分かっていません。ガニメデは内部海を持っていると考えられており、これらの問いに答えることは、衛星の内部進化の解明にも関係してきます。ガニメデ表面の二分性を詳しく考察するためには、高解像度の画像を取得し、表面を詳しく調べることが何よりも重要となってきます。JANUSによって得られるデータから、火山活動の有無・形態・活動履歴や、水氷の噴出有無・土壌の接触反応などを解明し、生命が存在しうる環境を理解するヒントを得ることも期待されます。

JANUSは、木星大気構造の詳細を調べることでも、大きな成果が期待されます。これまでの木星探査ミッションによって、木星では地球と同様に雷放電が発生することが分かっています。例えば、JUNO探査機による最新の電波・光学観測から、木星の北半球側の高緯度域で雷放電が頻発することが明らかになってきました(図2)。しかし、これまでの雷放電観測では、雷放電が放射する電磁波の観測や、可視カメラによるスナップショット的な観測しか行われていません。このため、雷放電の発光形状や発光強度はどのような時間的変化を示すのかは明らかにされていません。また、雷放電が発生した場所における木星大気の水平方向の対流構造がどのようになっているのか、それが鉛直方向の対流構造や、ベルトやゾーンといった明暗を示す大規模縞構造とどのような関係をもっているのか、雷放電が発生する大気の高度について、ほとんど明らかになっていません。一方JANUSは、木星雷放電を動画で撮像することが可能です。これによって、木星雷放電発光強度の時間変化や空間変化を詳細に調べることが可能となります。これによって、木星大気構造生成メカニズムの解明を目指します。地球以外の大気の理解もまた、生命の誕生と進化の理解につながる重要な科学課題です。

木星で発生する雷放電の想像図(NASA/JPL-Caltech/SwRI/JunoCam).


関連リンク:

JUICE: 日本も参加するESA主導ミッション、いよいよ氷衛星へ向けて打ち上げへ
JUICE Japan ウェブサイト
JANUS 可視分光映像カメラ 概要書