世界の宇宙ニュース:NASAのEuropa Clipper、氷衛星へ!

今年10月15日(日本時間)、NASAのEuropa Clipper (エウロパ・クリッパー)が米国フロリダから打ち上げられ、木星の氷衛星「エウロパ」までの18億マイル(約29億キロメートル)の旅を始めました。太陽から地球までの距離の5倍以上も遠い場所を周るエウロパは、荒涼としている凍てついた球体に過ぎないはず。ですがこの氷衛星は、地球外で生命が存在する可能性がかなり高い場所かもしれないのです。

Europa Clipperは、ある別のミッションの打ち上げからわずか数日後に打ち上げられました。そのミッションとは欧州宇宙機関が主導する「Hera」(ヘラ)で、プラネタリーディフェンスにおいて必要となるかもしれない小惑星の軌道を変化させる技術を実証するため、小惑星Dimorphos(ディモルフォス)に向かうものでした。Europa ClipperとHeraは、巨大なハリケーンがフロリダ沿岸を襲った前後に打ち上げられました。Heraはハリケーンが直撃する寸前に地球を旅立ち、Europa Clipperは強風により安全な打ち上げが不可能と判断されて4日間延期ののち、打ち上げられました。

2022年、NASAの木星探査機「Juno」(ジュノー)に搭載の「JunoCam」が捉えたエウロパの姿(image data: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS | image processing: Kevin M. Gill).

JAXA内でHera所内プロジェクトチームを率いる岡田 達明(おかだ たつあき)准教授は、両ミッションが無事に打ち上げられたことに胸をなでおろしたと言い、Europa Clipperは新しい生命の発見に焦点を当て、Heraは地球上にいまある生命を守ることに焦点を当てているものの、両ミッションにはある共通の目標があると指摘しています。

Europa Clipperの打上げ成功、おめでとうございます! われわれのHeraは、最大級で危険なハリケーンMiltonが迫ってくる中で打上げましたが、Europa ClipperはハリケーンMiltonが過ぎ去った後、見事な打上げでした。Heraはプラネタリ―ディフェンスのミッションですが、地球と人類の起源、より一般的には太陽系の惑星形成と生命誕生の起源に迫るという科学目標も掲げています。太陽系の天体のうち、天体内部進化の過程が存在し、地球以外で最も生命圏形成の可能性の高い天体の1つであるエウロパの探査には期待しかありません。共通の大目標に向かってともに頑張りましょう!!

岡田 達明(太陽系科学研究系 准教授)

木星は多くの衛星に囲まれていますが、大きなものではイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストがあります。この四大衛星は1610年、イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei)が自作の望遠鏡で天空を観測しているときに発見されました。太陽からここまで遠い世界は単なる凍った岩でしかない、と考えられてきましたが、ガリレオの名前を冠したNASAの探査機によってそれが誤りであることが、のちに証明されました。

NASAのミッション「Galileo」(ガリレオ)は、太陽系の外惑星を周回する初めての探査機として、1995年から2003年までの間に木星を周回しながら、おもだった衛星にも近接フライバイを行いました。Galileoからのデータでは、木星衛星エウロパの地表は氷であるももの、その殻の下に液体の水が蓄えられている可能性が示唆されました。木星の重力場が衛星の形状を歪めることで潮汐加熱(ちょうせきかねつ)が生み出され、太陽光がほとんど届かないにもかかわらず、内部を液体状態に保っているのです。Galileoはさらに、衛星ガリレオが固有の磁場を持っていることを突き止め、衛星ガリレオにも地下海が隠されている可能性を推測しました(のちにHubble Space Telescope=ハッブル宇宙望遠鏡によりこの説が支持されました)。これらのことから、木星の氷衛星が生命居住可能性に関する研究対象の最有力候補になったのです。

昨年、欧州宇宙機関は木星氷衛星探査計画「JUICE」(ジュース)を打ち上げました。JUICEには、JAXAもその開発の一部に参加した機器一式が搭載されています。その主な目的地は衛星ガニメデであり、JUICEはEuropa Clipperのすばらしい観測パートナーとなることでしょう。

NASA のEuropa Clipperが 2024 年10 月15 日、ケネディ宇宙センターから打ち上げられました。エウロパは木星の4大衛星(ガリレオ衛星)のひとつであり、表面が氷で覆われた氷衛星のひとつです。氷衛星の内部には、液体の水を主成分とする海が存在する可能性が指摘されており、生命居住の可能性が議論されています。氷衛星のなかでも、エウロパは水蒸気の噴出が観測されているという特長があります。Europa Clipperはエウロパへの着陸はせず、上空から、カメラ、赤外線分光器、氷中を調べるレーダー、質量分析器を用いてエウロパを観測します。我々が開発したレーザ高度計 GALA を搭載した欧州宇宙機関(ESA)の木星氷衛星探査機 JUICE も、2023 年4 月に打上げに成功しています。JUICE は木星の氷衛星であるエウロパ、カリストのフライバイ観測をした後、ガニメデの周回軌道に入って詳細な観測を行います。GALA ではガニメデの内部海の潮汐による変形を直接検出することが期待されています。この測定はEuropa Clipperではできません。2030 年代に入れば、木星系に到達して活躍するEuropa Clipperと JUICE の相乗効果で、氷衛星の環境の解明が大きく進展することでしょう。

塩谷 圭吾(JUICE/GALA-Japan プロジェクトマネージャ)

JUICEはエウロパをフライバイした後でガニメデの周回軌道に入ると、世界初の氷衛星の周回機となる予定です。Europa Clipperはエウロパを周回せず、エウロパを何度もフライバイして近接観測することでエウロパを詳細に調べます。エウロパは木星磁場圏の奥深くにありその周辺は猛烈な放射線が存在しているため、それに探査機が過剰に晒されないような軌道が設計されています。そうであっても、太陽系外れの極寒の環境でもきちんと機能する探査機を設計することは容易なことではない、と小田切 公秀(おだぎり きみひで)特任助教は説明します。

Europa Clipperの打上げ成功おめでとうございます!Europa Clipperが目指す木星近傍は極寒の世界です。太陽―木星間の距離は、太陽―地球間の約5.2倍もあり、太陽光の強さは地球近傍の約3.7%まで小さくなります。このため太陽電池の発電量も非常に小さくなります。このような外惑星探査の技術的挑戦の一つは、太陽光が届きにくい寒い環境で、電力も限られる中、機器を適切に保温しなければならない点にあります。Europa Clipperでは、保温用のヒーター電力をできる限り抑えるために、電子機器から発生した余分な熱を他の機器(推進系など)の保温に有効利用するHRS (Heat Redistribution System)という熱流体ネットワーク技術が採用されています。外惑星探査のサイエンスを最大化するために、私たちを含めて国内外で多くの研究者が高効率な熱技術の研究開発を進めております。今後にご期待ください。

小田切 公秀(宇宙飛翔工学研究系 特任助教 (熱制御工学)

齋藤 義文(さいとう よしふみ)教授は、氷に覆われた2つの天体システムの詳細観測の結果を比較することは極めて重要である、と話します。氷の下に閉じ込められた海の中でどんなことが起こり得るかについて、JUICEとEuropa Clipperが揃うことで初めて、真の洞察が得られることが期待されています。

JUICEとEuropa Clipperは、木星系を同時に複数の衛星で観測する絶好の機会になります。JUICEは特にガニメデの観測に重点を置いて、最終的にガニメデの周回衛星になる一方で、Europa Clipperはエウロパの観測に重点を置きます。それにより、地下に液体の海が存在すると考えられている2つの衛星の間にどのような共通点と相違点があり、どのような生命居住可能環境が、どのような条件で生まれて、どのように変化するのかを明らかにすることができると期待しています。また、JUICEはガニメデに到着するまでに木星磁気圏を高い緯度から観測する期間がありますが、赤道面で観測を行うEuropa Clipperとの同時観測によって、木星磁気圏の3次元構造と3次元的な変動を明らかにすることができると期待しています。JUICEとEuropa Clipper。2機による同時観測の成果はそれぞれの成果の足し合わせをはるかに超えたものになることでしょう。

齋藤 義文(JUICE-ISAS プロジェクトマネージャ)

地球に最も似ていない、それでありながら生命探査にとっては最も有望な、異形の生態系に対する私たちの見方が、いま、劇的に変わろうとしています。

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


関連リンク:

JAXA JUICE ウェブサイト
JAXA Hera ウェブサイト

Europa Clipper website (NASAのウェブサイト)

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