木星氷衛星探査計画「JUICE」搭載:
JUICE 搭載磁力計(J-MAG)

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木星氷衛星探査計画 /ガニメデ周回衛星 「JUICE」は欧州宇宙機関(ESA)が主導するミッションで、装置開発とサイエンスチームの両方に日本も大きく関わっています。日本が関わるJUICE搭載機器について、一つずつ詳しく解説しています。ミッションの概要についての記事は [こちら]です。

文:松岡 彩子 (京都大学、J-MAG-Japan 主任研究者)
J-MAG 磁場計測器 概要書


JUICE 搭載磁力計(J-MAG)のセンサ。製造を担当したのは、英国インペリアル・カレッジ・ロンドン、ドイツ・ブラウンシュヴァイク工科大学、オーストリア宇宙科学研究所、オーストリア・グラーツ工科大学 (Credit: Imperial College London).

ガニメデの磁場の高精度測定に挑む

磁力計(J-MAG)は、JUICE 探査機に搭載された主要な観測機器の一つである。

JUICE は木星の衛星の地下構造を明らかにすることを主要な目的としており、それには磁力計による磁場観測が重要な役割を果たす。まず、木星の衛星、特にガニメデ、カリスト、エウロパのような氷で覆われた衛星の内部構造が理解できると期待されている。氷の衛星表面の下にあると考えられている液体の水の海の深さや電気伝導度(電気の通しやすさ)を知ることが出来るだろう。衛星内部で磁場が発生するしくみや、衛星の地下海に電流が流れて磁場を生み出す様子も興味深い。

また、磁場は木星の磁気圏内のプラズマの物理過程に深く関わっている。磁場を計測することにより、プラズマのダイナミクスや、オーロラ現象、木星系内を流れる様々な電流について理解を進めることができる。

磁力計のためのブームと、外側 (MAGOBS) および内側 (MAGIBS) のフラックスゲートセンサの位置. Airbus Defence and Space (ADS) 提供(ESA).

J-MAG磁力計は、探査機の場所における、直流から64Hzまでの周波数の磁場の強度とベクトル(方向)を測定する。これまで多くの探査機で使用された実績を持つ、成熟した設計による2式のフラックスゲートセンサと、近年開発された技術を利用して磁場強度を測定する「結合暗状態磁力計」(CDSM)センサの組み合わせである。

項目要求性能
測定範囲 (科学観測期間における)±8,000 nT
磁場強度センサ精度0.2 nT
フラックスゲートセンサ直交度校正精度0.01o
デジタル分解能< 0.1 nT
軌道上精度(校正後)0.2 nT
機器寿命13.5 年
J-MAG の諸元

この3つのセンサは、10.6メートルの長さを持つブーム(伸展物)の先の部分に取り付けられており、特に磁場強度センサ(SCA)は先端についている。フラックスゲートセンサのうち探査機本体から遠いほうを Outboard (OB) フラックスゲートセンサ、近いほうをInboard (IB) フラックスゲートセンサとよんでいる。これら3つのセンサは、探査機本体内の電気回路の箱と、ハーネスによって接続されている。SCA はルビジウムガスのゼーマン効果を利用して磁場の絶対強度を測定する光学センサである。半導体レーザから発せられ光ファイバーを通ってきた、特殊な変調のかかった光によってガスを励起する。信号は2本目のファイバーを通して機器の回路に戻る。磁場強度計は、探査機がガニメデを周回する軌道に入った後、フラックスゲートセンサを校正するための参照値を測定する役割を担っている。

JACS (J-MAG 計測方向校正システム) コイルの外観. Airbus Defence and Space (ADS)提供(ESA).

J-MAG の科学目標を達成するためには、探査機に搭載された2つのフラックスゲートセンサー(MAGIBS と MAGOBS)が検知する磁場の方向を正確に決定する必要がある。フラックスゲートセンサが取りつけられているブームは長く、機械的な安定性だけではJ-MAG が測る磁場方向の精度要求を満たすことが容易ではない。検知方向の誤差を評価するために、2つの互いに直交するコイル(JACS コイル)が、探査機本体をめぐるように取り付けられている。コイルに電流を流すと、フラックスゲートセンサーの位置に磁場が発生し測定される。測定された信号は、探査機に対するフラックスゲートセンサの検知方向を決定し、その変化を追跡するのに用いられる。

日本の Selene (かぐや)探査機にも磁場を発生するコイルが備え付けられており、ブームに取り付けられたフラックスゲートセンサがその磁場を測定することによってセンサの検知方向を決定するのに用いられた。J-MAG チームの日本メンバは、かぐや探査機のセンサ検知方向の解析方法を、JUICE J-MAG の場合にも適用するための検討を行ってきた。JACSコイルに対する相対的なフラックスゲートセンサの検知方向を決定する可能性を検討した。JUICE の打ち上げ後は、JACSコイルに電流を流し磁場を発生している時のデータを解析し、センサによる磁場検知方向とその変化の推移を評価していく。評価結果は、ガニメデの氷の地殻の下に存在する海洋の構造を明らかにするという、JUICE ミッションの究極の科学目標達成に大いに貢献することが期待される。


関連リンク:
JUICE: 日本も参加するESA主導ミッション、いよいよ氷衛星へ向けて打ち上げへ
JUICE Japan ウェブサイト
J-MAG 磁場計測器 概要書