世界の宇宙ニュース:彗星と小惑星との境目は曖昧になりつつある。

夜空に尾を引く彗星は、古来から人々の興味を惹きつけてきましたね。近年は観測技術の発達によって、彗星と小惑星の区別が曖昧になってきました。

―嶌生(しまき)有理(宇宙科学プログラム室 主任研究開発員)

太陽を周回する小天体はこれまで、2つの異なる領域に存在するものとして2つのカテゴリーに分類されてきました。その一つである彗星は普段、地球からはるか遠い太陽系外縁部にいて、太陽系内側の岩石惑星の領域をほんの一瞬通り過ぎるだけです。氷天体である彗星は、太陽に近づいてから外縁部へ再び戻っていく間に観測される、特徴的なコマ(彗星頭部が明るくなる領域)や尾の蒸気によって、彗星であることが識別されます。

2022年9月8日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCam(近赤外線カメラ)によって撮影された238P/リード彗星。 (Credit: NASA, ESA, CSA, M. Kelley (University of Maryland). Image processing: H. Hsieh (Planetary Science Institute), A. Pagan (STScI))

もう一つのカテゴリー、小惑星は、より太陽に近い火星と木星の間にある小惑星帯(メインベルト)にあるか、小惑星リュウグウや小惑星ベヌーのように地球の近傍を公転する小天体です。小惑星の組成は主に岩石か含水鉱物で、太陽近くにあることから氷は存在していないと考えられています。

ですがこの彗星と小惑星、これまで考えられていたほどには全くの別物ではないことを示す事例がどんどん発見されています。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、その一つ、多くの小惑星が存在する領域にあって「メインベルト彗星」と呼ばれるリード彗星を観測しました。小惑星にも彗星にもそれぞれ”部外者”が存在していて、それらを探査する価値がある、と嶌生は説明します。

メインベルト彗星は、小惑星のような軌道であるが彗星活動を示す小天体です。一方、彗星のような軌道であるが彗星活動を示さない小天体は、枯渇彗星などと呼ばれます。日本の次世代小天体サンプルリターン探査では、彗星活動の低い木星族彗星からのサンプル採取を検討しています。こうした彗星と小惑星の中間的な特徴を持つ天体の試料は、小惑星と彗星の物理化学的な違いを明らかにして、太陽系の起源を理解する重要な要素になると思います。

―嶌生 有理

小天体は形成以来ほとんど進化を経験していないので、小惑星や彗星の特性をみることで、地球のような惑星を形成した材料物質がどんなものであるかを垣間見ることができます。彗星でもあり小惑星でもあるように見える例外者の存在は、太陽系を形作ることになる材料物質が太陽系内で大きく移動し、様々な岩石と氷からなる、様々な組成を持った材料物質が太陽系内で広くばらまかれたことを示す証拠でもあります。

「はやぶさ2」によって地球に届けられた小惑星リュウグウの試料を分析することは、初期太陽系内の物質輸送に関する地図パズルを完成させるうえでの、さらなる一つのピースと言えます。これまでの研究成果から、リュウグウは現在の軌道よりもずっと外側で形成されたはずだということが分かっている、と岡山大学の国広 卓也 准教授は説明します。

嶌生 有理 主任研究開発員

太陽系が形成してまもない頃、現在のリュウグウを構成する物質が氷天体にあったことは確実といえる。氷天体を彗星と認識するならリュウグウはかつて彗星だったといえよう。その氷天体から氷が失われた時期が問題だと考える。本研究によると、小惑星帯に位置する少なくともいくつかの小惑星は現在も氷を失っていない。

このような小惑星帯に滞在する氷天体が,近地球軌道をとれば、太陽にあぶられ氷を失うだろう。われわれはこの結果、リュウグウを含むラブルパイル小惑星が形成されたと考える。これが三朝モデルであり、本研究結果は三朝モデルと調和的といえる。氷天体から氷が失われたのは、太陽系初期でなくごく最近なのではないか。物的証拠を求め研究を継続したい。

―国広 卓也(岡山大学惑星物質研究所 准教授)

この太陽系外縁部から内側への材料物質の輸送は、太陽系の惑星の組成に影響を与えただけでなく若いころの地球がハビタブル(生命居住可能)となるために必要だった物質も届けたであろう、と東北大学の古川 善博 准教授はコメントします。

国広 卓也 准教授(岡山大学惑星物質研究所)

古川善博 准教授(東北大学理学研究科)

メインベルト彗星は、今でも彗星によって我々が住む太陽系の内側へ水が運ばれていることを示す明らかな例だろう。観測では検出できないが、有機物も同時に運び込まれているはずで、小惑星有機物との違いは太陽系の成り立ちや地球の生命構成分子の起源を理解する上で重要な手掛かりになりそうだ。

ー古川 善博(東北大学理学研究科 准教授)

ウェッブ望遠鏡によるリード彗星の観測により、メインベルト彗星のコマと尾は水蒸気から構成されている、ということが確認されました。普通の彗星では当然のことであっても、このことで、小惑星帯を周る彗星で水の氷が保存できる、と確認されたことになります。一方、ウェッブ望遠鏡による観測で二酸化炭素は検出されませんでした。二酸化炭素は普通の彗星のコマや尾では観測されますが、ここで検出されなかったということは、小惑星帯にある彗星では水の氷が残る一方で二酸化炭素の氷は保持できないということを示しています。

長谷川 直 主任研究開発員は、本当は小惑星帯にある小天体のもっと幅広い種類のサンプルのデータがあればよい、そうすれば、その中で彗星に近い性質を持つものがどれだけ典型的であるかを確認できる、と話します。ただし、それは簡単ではないだろうと付け加えます。

このJWSTの結果はとてもエキサイティングですね。ISASが打ち上げた赤外線天文衛星「あかり」で一般的な彗星の水と一・二酸化炭素の系統的なサーベイが行われました。この時は一・二酸化炭素がどちらも検出されなかった彗星は見つかっていません。赤外線天文衛星「あかり」の時とは異なり、今回観測されたメインベルト彗星の軌道は火星と小惑星の間に存在する一般的な小惑星の軌道と同様です。即ち、軌道的にはこのメインベルト彗星は彗星としては特別ですが、小惑星と考えると軌道的には特別ではありません。

この天体の表層の近赤外の反射スペクトルを見ると、この領域に多く存在するあるタイプ小惑星のスペクトルと似ています。その似ている天体はこのメインベルト彗星と同様な組成(つまり、似たようなスペクトルを持つメインベルト小惑星は一・二酸化炭素を持っていないことを示唆している)・同様な挙動を起こす(なにかきっかけがあると同様な彗星活動を起こす)のではと考えられます。

メインベルトの小惑星探査を行う時に、小惑星探査機「はやぶさ2」のようなインパクターを持って行って、彗星活動を起こさせて、このような彗星活動を起こさせれば、水と一・二酸化炭素の調査を行えるのではと、妄想できます。ただ、2010年に10mクラスの小惑星が衝突した596 Scheilaでは、チリ雲は発生しましたが、今回のようなガスは検出できでした。ですので、インパクターを持って行って、対象天体に衝突させても、ガス自体発生しないかもしれないので、どの天体にそのような探査を行うかは悩ましいところではありますが(表層はリフレッシュするので、その探査はできますが・・・)。

―長谷川 直(大学利用実験調整グループ 主任研究開発員)

長谷川 直 主任研究開発員

この太陽系の最も小さな世界には、惑星がどのように形成され、私たちの地球がどのように進化してきたかを知る手がかりが数多く隠されていることは間違いないでしょう。さて、次はどの小天体を探査する?

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


“世界の宇宙ニュース” (旧”海外の宇宙ニュース”) シリーズは世界中の宇宙開発の重要な発展に焦点をあて、私たち研究者のこれら成果への興味を共有する場です。

関連リンク:
「はやぶさ2拡張ミッション」ウェブサイト