動き出す2026年:注目のミッション関連イヴェント
2026年、雷鳴のような勢いを象徴する干支である丙午(ひのえうま)の年が動き出しました。その力強い蹄の音に導かれるように、JAXA宇宙科学研究所では四つの大きなミッション関連イヴェントが予定されています。

蹄の音①:小惑星トリフネのフライバイ
5年余り前、ある探査機が地球との衝突コース上にありました。地球から約22万キロメートルのところで探査機からカプセルが分離され、カプセルは大気圏へ向けて降下を開始します。JAXA相模原キャンパスの管制室では、「はやぶさ2」への最終コマンド―「地球に向かう軌道からの離脱」が送信されました。
小惑星リュウグウから採取した試料が入ったカプセルは、南オーストラリアに無事着陸しました。地球からの指令を受け、「はやぶさ2」は3回のスラスタ噴射で正確な軌道変更を行い、衝突コースを外れると地球近くを滑るように通過して、再び深宇宙へ戻りました。新たなミッションの始まりです。
この拡張ミッションは「はやぶさ2#」と名付けられました。「#」は、Small Hazardous Asteroid Reconnaissance Probe(小型危険小惑星偵察機)を表す頭文字SHARPに由来します。拡張ミッションでは新たに二つの小惑星を訪れることで、将来起こりうる小惑星衝突から地球を守るのに役立つ可能性のある情報を収集します。
はやぶさ2#は予定通りに航行しており、2026年7月5日に一つ目の小惑星に接近することになっています。
その最初の目的地となる小惑星(98943)トリフネは、日本の神話に登場する、高速でも安全に航行するとされる神々の船の名にちなんでいます。この名称には、高速フライバイで小惑星を観測するというミッションの狙いが込められています。
フライバイは一度きりのチャンスです。「はやぶさ2」はトリフネをおよそ秒速5キロメートルの相対速度で通過し、最接近時のごく短い瞬間にしか画像を捉えることができません。しかも、搭載されているカメラは近距離で長期間ランデブーしながら詳細観測を行うことを想定して設計されています。そのため高速通過という条件のもとでトリフネの良質な画像を得るためには、できる限り小惑星に接近する必要があり、極めて高精度な航法制御が求められます。「はやぶさ2」は地球を安全に通過しましたが、今回求められる高精度な航法は、将来、地球に接近する小天体の軌道を逸らすために、探査機を意図的に小天体に衝突させる場合と同等の精度が求められるのです。
トリフネへの高度な近接フライバイに成功すれば、新たな小惑星の貴重なデータを得られるだけでなく、将来、地球を守るために必要となる技術を実証することにもつながります。

蹄の音②:衝突地点
小惑星の軌道変更は、2022年9月22日に史上初めて実施されました。その試みを担ったNASAのDART(ダート)が送信した緊迫感のある一連の画像では、小惑星Dimorphos (ディモルフォス)の地表がカメラの視野いっぱいに広がっていき、最後には画像が不気味な赤に染まる様子が映し出されていました。
Dimorphosは二重小惑星系を構成する一つで、DARTの衝突によって、二つの小惑星の相互軌道(互いに回り合う動き)には、地球から測定できるほどの変化が生じました。ですが、DARTはDimorphosの軌道変更に成功したものの、衝突によって探査機は破壊され、衝突前に小惑星の詳細な観測を行う時間はありませんでした。そのため小惑星の性質や衝突地点の環境は不明のままです。衝突による影響の全容はいまだ謎であり、同様の衝突が別の小惑星にどのように影響を与えるか、信頼性をもって予測することが難しくなっています。
その解決策が、二重小惑星探査計画Hera(ヘラ)ミッションです。欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げたHeraは、2026年11月にこの二重小惑星系に到着することになっています。Heraは、Dimorphosとその衝突地点を詳細に調査し、強い運動エネルギーをもって衝突したことのもたらす結果の解明につながることが期待されています。
HeraにはJAXAが開発した熱赤外カメラ(TIRI)が搭載されています。TIRIは、「はやぶさ2」に搭載され、小惑星リュウグウの表面物質がとても多孔質な性質を持っていることを明らかにした熱赤外カメラの後継機です。TIRIはDimorphosにおいても、岩石がどれだけ早く加熱・冷却されるかを測定するほか、放出される赤外線をさまざまな波長で分析します。これにより、小惑星の構造や組成を明らかにする手がかりが得られます。
昨年Heraが火星を通過した際、TIRIは試験観測を行い、火星および火星の最も外側を公転する衛星、Deimos(ダイモス)を撮像しました。火星にある巨大なヘラス盆地(Hellas Planitia)と呼ばれるクレーターは、火星表面の温度画像では低温領域として確認できました。ですが、これは火星圏へのほんの一瞬のスイングバイにすぎませんでした。これとは別に、火星圏をさらに詳しく探査するミッションが控えています。

蹄の音③:Phobosへ向けて
人類が火星衛星を発見してから、およそ150年が経ちます。しかし、火星衛星に特化した探査ミッションはこれまで一度も行われてきませんでした。その歴史が、2026年度、火星衛星探査計画(MMX)が種子島宇宙センターから打ち上げられることで塗り替えられます。MMXは、火星の二つの衛星Phobos(フォボス) と Deimosの両方を観測します。中でもPhobosに重点を置き、火星圏としては世界初となるサンプルを採取し、地球に持ち帰ることを目指しています。
この二つの衛星の成り立ちについては、現在も活発に議論されています (動画:📺)。一つの仮説は、外太陽系から内側へと散乱してきた小惑星が火星の重力に捕獲され、その結果として二つの衛星が形成された、というものです。もう一つの説は、火星に巨大衝突が起こり、その際に放出されたデブリが集まって、二つの衛星になったというものです。どちらのシナリオであっても、二つの衛星には火星圏の進化や、生命居住可能な環境が形成されていく過程についての重要な手がかりが残されているはずです。一つ目の仮説を支持する#TeamCaptureの立場では、二つの衛星は氷に覆われた外太陽系からどのような物質が運ばれてきたのかを示す証拠であり、水や有機物がそうしてもたらされた可能性を示唆するものと考えられています。一方、二つ目の仮説を支持する#TeamImpactの立場では、二つの衛星は火星がかつて生命居住可能であったかもしれない時代の一部を閉じ込めた「タイムカプセル」であることが期待されています。
MMXに搭載される観測機器と、地球に届けられる試料を組み合わせて読み解くことで、二つの衛星の成り立ちを解明し、火星の過去を探るとともに、私たちの地球が生命居住可能な世界へ進化してきた過程について、さらなる理解を進めてくれるでしょう。
MMXはJAXAが主導し、NASA、CNES(フランス国立宇宙研究センター)、DLR(ドイツ航空宇宙センター)、ESA、ASA(オーストラリア宇宙庁)が、観測機器の提供や地上支援で参加しています。中でもMMXローバーであるIDEFIX(イデフィックス)は、MMX探査機よりも先にPhobosに着陸し、世界で初めて火星衛星の地表を探査することになっています。Phobosから採取された物質を入れたサンプルカプセルはオーストラリアに着陸する計画です。
MMXは2027年度中には火星圏に到着し、試料を採取して2030年度までその場観測を行い、2031年度に地球に帰還することになっています。

蹄の音④:マーキュリー・ライジング
「サンク…カトル…トロワ…ドゥ…アン…トップ!」
(フランス語で「5…4…3…2…1…発射!」)
フランス領ギアナにあるギアナ宇宙センターで、ロケットは火を噴き、空へ舞い上がりました。Kourou(クールー)宇宙基地からのライブ中継では、最後に「さようなら!」という言葉が響き渡りました。
BepiColomboは2018年10月、水星へ向けた長い旅路に出ました。そして今年、丙午の年を締めくくる熱い出来事として待つのが、太陽に最も近い惑星、水星への到着です。
BepiColomboはESAとJAXAが協力するミッションで、それぞれが開発した周回機が一体となり一つのミッションを構成しています。JAXAの水星磁気圏探査機「みお」は、水星の磁場や水星周辺の、太陽風や放射線にさらされる過酷な環境を詳細に観測します。ESAの水星表面探査機MPOは、水星の表面を詳細に観測します。
水星までは8年という長い旅です。太陽の強力な重力の中で、水星の周回軌道に入るための極めて厳しい速度条件を満たさなければなりません。そのためBepiColomboは9回のスイングバイを行い、地球、金星、水星の重力を利用して太陽の重力に抗ってきました。
ついに水星を観測する時がやってきます。2機は2026年12月に分離し、それぞれ水星の周回軌道に投入される予定です。

丙午の年に期待されるこの力強い進歩には、ひとつだけ注意が必要です。あまりに先を急ぐと、燃え尽きてしまうかもしれません。今年、宇宙では数多くの驚くべき出来事が待っています。ときには一息つきながら、私たちと一緒に一つ一つのイヴェントを楽しみましょう!
(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)
関連リンク:
・小惑星トリフネのフライバイは2026年7月5日に(2025年12月19日 宇宙科学研究所ウェブリリース)
・拡張ミッションのビデオを公開します(2020年11月11日 「はやぶさ2#拡張ミッション」)
・二重小惑星探査計画 Hera ウェブサイト
・二重小惑星探査計画Hera探査機の火星スイングバイ運用の実施結果(2025年3月14日 宇宙科学研究所ウェブリリース)
・BepiColombo 水星磁気圏探査機「みお」ウェブサイト
・地球1回、金星2回、水星6回:BepiColombo 水星までの壮大な旅路(2025年8月5日 Cosmosブログ)
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