XRISM2年間の成果:X線観測が明かす新たな宇宙像

「2年が経ちました。XRISMは初期科学目標を達成できたでしょうか。」

X線分光撮像衛星XRISM(クリズム)の副プロジェクトサイエンティスト、山口 弘悦(やまぐち ひろや)教授が質問を投げかけたのは、第一回XRISM国際会議の閉会の場でした。京都テルサで開催されたこの会議には18か国から300名を超える参加者が集まっていました。京都テルサは、XRISMに先立つミッション、X線天文衛星「すざく」の国際会議が2006年に開かれた会場でもあります。

「第一回『すざく』国際会議の当時、私は大学院生でした。」山口教授は当時を思い起こしながらこう続けます。「まさか19年後、自分が別のX線ミッションの国際会議を主催する側になるなんて、思ってもいませんでした!」

X線撮像分光衛星XRISM(クリズム)の想像図。

宇宙望遠鏡であるXRISMは、X線で宇宙を観測することを目的に2023年9月に打ち上げられました。X線は、超大質量ブラックホールに流れ込む物質が巻き込まれる際に高温ガスとなっている様子や、銀河団を満たす高温プラズマなど、宇宙でも特にエネルギーの高いガスを構成する粒子の一部から放射されています。XRISMはJAXAとNASAの共同ミッションで、欧州宇宙機関(ESA)や世界各国の研究機関も協力しています。XRISMには、X線撮像装置Xtend(エクステンド)と、主力となる、X線光子をこれまでにないエネルギー分解能で測定する軟X線分光装置Resolve(リゾルブ)が搭載されています。

銀河団の進化

Resolveの高いエネルギー分解能により、XRISMは銀河団の中心で起きていることに関する長年の仮説を検証できるようになりました。銀河団は、数百から数千の銀河が重力によって結びついた宇宙最大の構造物です。その中心付近では銀河の間に広がるガスが非常に高温になり、X線を放射しています。このようにきわめて高いエネルギーの放射が続けば、形成から数十億年の間に銀河団中心部の高密度なガスは冷却されていくはずです。しかし実際には、ガスはX線を放射するほどの摂氏数百万度という高温を保ち続けていることが分かってきました。これを説明する有力な説として、銀河団の中で最も明るい銀河の中心にある超大質量ブラックホールが高速のガス流出(アウトフロー)を発生させていて、それが生み出す乱流によって銀河団中心部の物質を加熱している、というものがあります。

銀河中心に存在する超大質量ブラックホールと、そのアウトフローの想像図。この想像図は、XRISMによる観測結果と過去の観測に基づき、セイファート銀河NGC 4151の中心部を表現している。

Resolveは、銀河団内部の乱流の程度(速度分散)を直接測定することができます。おとめ座銀河団の観測によって、銀河団で最も明るい銀河とその超大質量ブラックホールが位置する中心から50kpc(50キロパーセク、約16万光年)以内の領域では速度分散が明らかに高くなっていることが分かりました。超大質量ブラックホールの近傍でガスの運動が最も活発であることから、銀河団中心部のガスが、このブラックホールを源とするエネルギーによって高温状態を維持している、ということを示す明確な証拠が得られています。

ただ、銀河団内で観測されたガスの運動は常に大きいわけではありませんでした。銀河団の中心領域から離れたところでは、Resolveは多くの理論的予測よりも低い速度分散値を測定しました。銀河団の主要部(中心から50kpc~約500kpc)にあるガスは、銀河団に落ち込む物質の合体や降着によってかき乱されると予想されています。この「かき乱し」が、銀河団の質量を推定する際に研究者をジレンマに陥れてきました。銀河団の質量の大部分は、直接観測することのできないダークマター(暗黒物質)から構成されています。そのため研究者は銀河団内の高温ガスの温度から圧力を計算し、それに基づいて質量を推定します。もし銀河団が収縮も膨張もしていないとすれば、ガスが外向きに押し広がろうとする圧力と、銀河団の重力による内向きの力とがちょうど釣り合っています。この関係と重力の強さが銀河団の総質量から決まることを利用すれば、ガス圧力を求めることから銀河団の総質量を求めることができるのです。ですが、銀河団内に物質が流入してガスが強くかき乱されている場合、銀河団全体の圧力は「ガスの温度による圧力」だけでなく、「乱流による追加の運動」にも影響された値ということになります。したがって、温度だけを使用して圧力を見積もると銀河団内の圧力が過小評価され、よって銀河団の質量も過小評価されることになってしまいます。

Resolveが測定した速度分散の値が低かったことから、銀河団内部における非熱圧力(熱によらない圧力)は極めて小さく、全体のわずか数パーセントにとどまることが示唆されました。そのため、熱圧力(ガスの温度によるもの)だけを使って銀河団の質量を見積もることは、十分に妥当であると判断できます。

エネルギー輸送

XRISMは、銀河の中心にある超大質量ブラックホールそのものについても詳しく観測を行いました。ブラックホールの周囲には、ガスや塵が回転しながら降着して形成される「降着円盤」がブラックホール本体を取り囲むように存在します。さらにその外側には、ドーナツ型をした「塵のトーラス(円環状構造)」が広がっています。また降着円盤に対して垂直方向には、細く絞られた高速のアウトフロー(外向きの流れ)が噴き出しています。このアウトフローは銀河全体に影響を及ぼす「風」を駆動し、結果として銀河団の中心部にあるガスをかき乱す原動力になっていると考えられています。

超巨大ブラックホールPDS 456の想像図。ブラックホールから吹き飛ばされる風を白色で示している。

超大質量ブラックホールからのアウトフローは、これまで滑らかで連続的なものだと考えられていました。しかし、高解像度観測が可能なResolveが超大質量ブラックホールPDS 456を観測したところ、アウトフローの内部には少なくとも5つの「弾丸」のような塊からなる、驚くほど複雑な構造の風が存在することが明らかになりました。このような塊状のアウトフローは、滑らかなアウトフローと比べてはるかに多くのエネルギーを運んでいる可能性があり、そのエネルギー量は銀河規模で吹いている数千光年程度に広がった風の1000倍以上にも達すると推定されています。では、風を駆動する以外に、この膨大なエネルギーはいったいどこに消えてしまっているのでしょう?

まず考えられるのは、塊状のアウトフローから銀河のガスへのエネルギー輸送効率が非常に低く、ガスが受け取っているのは放出されたエネルギーの一部にとどまる、という説明です。別の可能性としては、アウトフローは連続的ではなく、まれにバースト的に生じているのかもしれません。これはXRISMが新たに私たちに投げかけた問いです。

超大質量ブラックホール MCG–6-30-15 周辺の想像図。 左上はXRISMが搭載する高分解能分光装置「Resolve(リゾルブ)」が観測したMCG–6-30-15のスペクトル。ブラックホールから離れた領域を起源とする「幅の狭い輝線」、降着円盤から吹き出す風(アウトフロー)に由来する「幅の狭い吸収線」に加えて、特に低エネルギー側に大きく拡がったFe Kα輝線が検出された(CfA/Melissa Weiss)。

超大質量ブラックホール系をさらに詳しく調べるため、XRISMは降着円盤の極限環境を観測し、アインシュタインの一般相対性理論の検証に取り組みました。回転するガスの円盤を真横(エッジオン)から見ると、円盤の半分は物質が地球から遠ざかっているため、光のドップラー効果により、光の波長が伸びて赤い側へ寄って見える赤方偏移(せきほうへんい)を示します。円盤のもう半分は物質が地球に近づいてきているため、光の波長が短くなって青い側へ寄って見える青方偏移(せいほうへんい)を示します。通常の天体の回転では、赤方偏移と青方偏移はほぼ対称的となるはずです。ところが、超大質量ブラックホールの極めて強い重力場では、光子は脱出の過程でエネルギーを失います。エネルギーを失った光は波長が長くなります。しかも、ブラックホールに近い円盤の内側ほど重力が強いため、光が失うエネルギーも大きくなります。その結果、円盤のなかの赤方偏移の大きさにばらつきが生まれ、スペクトルは非対称となり、赤方偏移側に伸びる「尾」のような部分が現れると予想されています。

この結果は一般相対性理論によって理論的にも予測されていたことで、XRISMの前身であるJAXAのX線天文衛星「あすか」や「すざく」による観測からも示唆されていました。ですがそのどちらも、決定的な答えに導くほどのエネルギー分解能を備えていませんでした。Resolveは赤方偏移した尾を観測することに成功し、一般相対性理論で提唱されていた効果が実際に作用していることを実証しました。この検出によって、XRISMは超大質量ブラックホールの回転の速さを推定することが可能になり、今後の解析によるさらなる成果が期待されています。

宇宙の元素はどう作られるのか

炭素とそれより重い化学元素は、恒星内部の核融合反応によって生成されます。大質量星が寿命を終えるとき、中心にある核が崩壊し、超新星爆発を起こします。恒星内部で合成された元素は外に放出され、新しい恒星や惑星、さらには生命の材料となります。爆発の結果生じた残骸の雲は超新星残骸と呼ばれ、数万年にわたってX線で輝くほどの高温を維持します。

この過程は広く理解されているものの、理論モデルではリン、塩素、カリウムなどの、陽子数が奇数である「奇数番号元素」を大量に生成することは困難ということが示されています。ですがこれらの元素は宇宙に確かに存在していて、地球では生物の営みにも不可欠です。したがって、それらの起源を理解することは、私たち自身の存在に深く関係する、極めて身近な問題なのです。

Resolveは、超新星残骸カシオペア座Aでこれらの元素の痕跡を検出しました。注目すべきはこれらの元素が超新星残骸の中でも酸素が豊富な領域に集中していた点で、これは従来の「各元素は恒星内部のそれぞれ異なる層で生成される」という理論モデルと矛盾しています。その矛盾を説明する仮説の一つとして、超新星爆発の前に恒星内部の複数の層が激しく混ざり合った可能性があります。もし混合が起きていれば新たな核融合反応が進み、これまでの予想よりもはるかに効率よく奇数番号元素を生成できる可能性があります。何がそのような混合を起こすのかは現在も議論されていますが、恒星内部に強い対流が起きていた可能性や、別の星との重力相互作用がきっかけになった可能性などが検討されています。 

「W49B」の想像図/XRISM (X線)、Palmer(赤外線)、VLA(電波)での観測結果を参考にして作成。

XRISMが二つ目の超新星残骸W49Bを観測した時、研究者は思いがけない発見に直面しました。W49Bは極めて明るい超新星残骸で、これまでも詳しく研究されてきた天体です。観測された化学元素の組成から、W49BがIa型(いちえいがた)超新星であることが示唆されています。Ia型とは、単独の大質量星が爆発して生じるものではなく、二つの恒星が互いを回り合う連星系でみられる種類の超新星です。連星の一方は寿命を迎えると白色矮星になります。白色矮星とは、太陽のように単独では超新星爆発に至らないほど質量が小さい恒星が、進化の最終段階で残す星の残骸です。ところが白色矮星は、連星の相手である伴星から徐々に質量を取り込み、やがて限界質量に達すると熱核爆発を引き起こします。このようなIa型超新星では、大質量星が自ら崩壊して爆発するタイプの超新星とは異なり、残される元素組成に大きな違いが生じます。例えばIa型では、大質量星の深い層で生成されるチタンなどの元素はほとんど見られません。

W49BがIa型超新星の残骸であることを示す証拠があった一方で、Resolveの観測から、この残骸が東西方向への2つのアウトフローをもつことが明らかになりました。この双極構造はこれまで考えられていた円盤状の構造とは異なり、そもそもIa型超新星からは形成されないと考えられています。大質量星が自ら崩壊して起こるコア崩壊型超新星でこのような双極流が形成される可能性はありますが、その場合に予想される化学元素の存在量とも一致しません。では、W49Bとはいったい何なのでしょうか?この奇妙な構造はきわめて特殊な環境でできたものなのか、それとも全く新しい種類の超新星の誕生を示しているのでしょうか。

(観測によって明らかになった内容について、XRISMのウェブサイトにて詳しく紹介されています)

2年間の運用を経て、XRISMの観測は数々の理論を裏付けると同時に新たな現象(物理過程)を明らかにしてきました。これらの成果は、宇宙がどのように進化しているのかを理解していくうえで、多くの課題と問いを私たちに投げかけています。

「質問の答えはYesです。当初掲げた科学目標は、間違いなく達成されました。」山口教授は第一回XRISM国際会議を締めくくります。「それと同時にこの2年間で、XRISMはさらに多くの『次に解くべき謎』を私たちに教えてくれました。」

奇妙で謎に満ちた高エネルギー宇宙の探査を続ける中で、XRISMの物語は今後何年にもわたってさらに紡がれていくことでしょう。

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)


関連リンク:
XRISMプロジェクトサイト

関連する科学論文(外部サイト):
<銀河団内部におけるガス構造>

<超大質量ブラックホールからのアウトフローの塊状構造>
Structured ionized winds shooting out from a quasar at relativistic speeds
XRISM Collaboration

<奇数原子番号元素の生成>
Chlorine and potassium enrichment in the Cassiopeia A supernova remnant
XRISM Collaboration

<ブラックホール降着円盤観測による一般相対性理論の検証>
A Sharper View of the X-Ray Spectrum of MCG–6-30-15 with XRISM, XMM-Newton, and NuSTAR
Brenneman et al.

<超新星残骸からの双極アウトフロー>
Kinematic Evidence for Bipolar Ejecta Flows in the Galactic Supernova Remnant W49B
XRISM Collaboration