ESAと JAXA、Apophis観測ミッション「Ramses」打ち上げへ
2029年4月13日、数十億人が数世代に一度の珍しい天体現象を目撃する見込みです。
この現象とは、Apophis(アポフィス)と呼ばれる小惑星の、地球への最接近です。Apophisは直径約375mで、地球から約32,000kmの距離を通過します。これは月までの距離の10分の1程度です。Apophisは地球に危険をもたらすものではありませんが、このサイズの小天体が地球にこれほど接近するのは数千年に一度の出来事です。
「Apophisは世界中で大きな注目を集めるでしょう。」と、フランス国立科学研究センター(CNRS)コートダジュール天文台の惑星科学者Patrick Michel(パトリック・ミッシェル)氏は話します。「そして、世界の注目が集まる中でESAとJAXAが協力することは、国際協力の重要性、特に今求められている国際的な絆を示す強いメッセージだと思います。」

2025年11月末、欧州宇宙機関(ESA)の閣僚級会議がブレーメンで開催されました。この会議は3年ごとに開かれ、ESA加盟23か国の閣僚が一堂に会し、提案されたプログラムの中から打ち上げに進めるものを決定します。
「ミッションの採択は非常に複雑です。」とMichel氏は説明します。「重要なのは科学だけではありません。細部にまで慎重に検討しなければならないのです。なぜならどんな要素が支持を得る決め手になるのか、政治の選挙のように予測が難しいからです。」
Michel氏は小惑星軌道に関する世界的権威です。氏はこれまで、危険な小惑星から地球を守ることを目的とした複数のミッション提案がESAの閣僚会議に提出される過程を見てきました。20年前、「Don Quijote(ドン・キホーテ)」小惑星軌道変更ミッションの構想は、2機構成の探査機設計に十分な資金が確保できず、棚上げされました。その後の提案であるAIMは、NASAの「DART(ダート)」と同時に打ち上げられる予定でしたが、ノーベル賞授賞者や宇宙飛行士、著名人を含む1,000名以上の署名による支持書が添えられたにもかかわらず、2016年に却下されました。しかし次の試みである「Hera(ヘラ)」は2019年の閣僚会議で採択され、2024年に打ち上げられました。Heraは2026年11月に小惑星Didymos(ディディモス)に到着し、NASAのDARTによる衝突の結果を観測し、運動エネルギーによる軌道変更技術の理解を深めることが期待されています。
「粘り強さが必要です。」と、Heraの主任研究員であるMichel氏は話します。「これが私の最初のメッセージです。決して簡単ではなく、失敗を受け入れなければならない場面もありますが、それで落胆する必要はありません。」

こうした失敗と成功の両方から得られた経験が、2025年の閣僚会議での最新の成果である、小惑星Apophisへの接近を目的としたミッション「Ramses(ラムセス)」の打ち上げ決定につながったのです。
「Ramses」は、「Rapid Apophis Mission for SpacE Safety(宇宙安全のためのApophis緊急ミッション)」を意味し、2029年に小惑星Apophisが地球のそばを通過するタイミングで探査機が接近し、地球の重力が小惑星にどのような影響を与えるかを調べます。これはプラネタリーディフェンス(地球防衛)の観点から非常に重要で、小惑星が外部からの力にどのように反応するかを理解することが、将来の衝突を回避するための技術検討を進めるうえで鍵となります。
JAXAの「はやぶさ2」による衝突実験で大きなクレーターと振動が発生したことを踏まえ、ESAでRamsesのプロジェクトサイエンティストを務めるMichel氏はこう説明します。「『はやぶさ2』は、重力が極めて弱い環境では小惑星との相互作用の結果を予測することが必ずしも容易ではないことを示しました。今回の特別な機会には、自然がその役目を果たしてくれます。自然が相互作用を引き起こし、私たちはそれを観測するだけです。」
小惑星Apophisとのランデブーを目指すRamsesミッションの概要アニメーション(ESA)。
ESAは単独でApophisに向かうわけではありません。RamsesはJAXAとの共同ミッションであり、JAXAはH3ロケットで種子島宇宙センターから打ち上げ、熱赤外カメラと薄膜軽量太陽電池パドルを提供することになっています。JAXA宇宙科学研究所の藤本正樹所長にとって、RamsesはJAXAが支援しないという選択肢はないほど重要なプロジェクトでした。
「Ramsesは絶対に実現させなければならない」と藤本所長は協調します。「我々はESAのSpace Safety Program(宇宙安全プログラム)と緊密に連携してきており、JAXAとして本格的な協力を決意したミッションです。」
Ramsesの打ち上げは、活動的小惑星Phaethon (フェートン)を含む複数の小惑星を高速フライバイで観測するJAXAの別のプロジェクト「DESTINY+(デスティニープラス)」も後押ししました。DESTINY+は当初、より小型のJAXAイプシロンSロケットで打ち上げられる予定でしたが、能代ロケット実験場での地上試験中の異常燃焼で設備が損傷し、延期されていました。DESTINY+は、H3ロケットによるRamsesの打ち上げに合わせて相乗りし、Ramses到着前に小惑星Apophisへのフライバイを行うことができる可能性も出てきました。これにより、Apophisの初めての宇宙からの画像が得られ、Ramsesの運用計画をより綿密にする助けとなることができる可能性があり、それは是非とも実現させたいことです。
Michel氏は、RamsesへのJAXAの強力な支援が、閣僚会議の決定において重要な要因だったと考えています。
「力強いメッセージであり、好意的に受け止められました」とMichel氏は述べています。「小天体のエキスパートとして認められている組織が協力機関になる意欲を示した、ということは、加盟国を説得するうえで大きな助けとなりました。」

Ramses探査機の設計はHeraミッションから継承されており、小惑星Apophis接近時の地球からの距離が、HeraがDidymosに接近した際よりもはるかに近いため、アンテナと太陽電池パネルはより小型化されています。Heraはわずか4年間で開発完了させると計画され、嬉しい驚きとともに予定通りに打ち上げられ、予算も当初計画額以下で完了しました。この実績がさらなる支援を得る要因となったのは事実で、Ramsesも同様の期間で開発完了すると期待することは合理的、とされたのです。
「Apophisは待ってはくれません!」とMichel氏は叫びます。「計画をもっと早く始められなかったのは、まずHeraを打ち上げて、私たちが実現できることを証明する必要があったからです。」
JAXAはHeraミッションにも協力しており、そこで提供した熱赤外カメラはRamsesにも搭載されることになっています。ESAが初めて「Don Quijote」を検討した当初から、JAXAは「はやぶさ」、「はやぶさ2」による小惑星探査の高度な専門知識を背景に、両機関は緊密に連携してきました。ESAのSpace Safety Programは技術重視のミッションにおける迅速な開発スケジュールと科学的目標を組み合わせるもので、このプログラムが宇宙科学研究所の小天体探査プログラムの設計思想を反映していることから、ESAとJAXAのパートナーシップはさらに深まりました。
「ミッションの魅力は、単なる科学的価値だけではありません。」と藤本所長は話します。「Ramsesは、ESAとJAXAの協力関係を一段と強化する絶好の機会です。」

このような国際協力は、両機関がそれぞれ独立した資金承認プロセスを経る必要があるため、確かに複雑になります。ですが、このパートナーシップの価値は単にコストを分担することに留まりません。真の価値は、互いが持ち寄る違いにこそあります。
「もし私たちの専門性が単に重なっているだけなら、その協力は単なる費用の問題に過ぎません。」とMichel氏は説明します。「それは納税者にとっては、両者の費用削減という意味で満足できることかもしれません。しかし、科学者は、専門知識や新しい機器、あるいは新しいアプローチを提供できるパートナーを求めています。」
その一例が、JAXA宇宙科学研究所が「はやぶさ2」に搭載型小型衝突装置(SCI:Small Carry-on Impactor)を搭載する決定をしたことです。慎重な設計により探査機本体の安全性は確保されましたが、Michel氏は、爆発を伴う衝突実験に対して多くの宇宙機関は躊躇しただろうと感じています。それでも、この実験によって「はやぶさ2」は小惑星内部の手つかずの物質を採取し、ラブルパイル型(がれきの集まりである)天体における衝突の結果を観測することができました。JAXAがミッションに利益をもたらすリスクを積極的に受け入れた姿勢は、特に厳しい時間枠で開発を進める必要があるプラネタリーディフェンスのミッションにおいて、重要な参照ポイントとなったのです。
「リスクがあることを認め、そのリスクを受け入れることでミッション開発をより迅速に進められる可能性があるという認識が、ESAのプログラムにとって重要なインスピレーションになったと私は考えています。」とMichel氏は話します。

もちろん、国家間の協力は困難を伴う場合があります。ESAはヨーロッパの複数の国による協力機関ですが、Michel氏は日本との文化的な違いがはるかに顕著だと認めています。
「ドイツ、イタリア、フランスは同じ文化を持っているわけではないかももしれませんが、それでもお互いに意見をぶつけ合います。」とMichel氏は冗談めかして話します。「でも日本とはそのようなことはしません!」
それでもMichel氏は、会議中の沈黙の意味など、些細であっても重要な違いをどう解釈するかを学ぶことが、国際協力における醍醐味の一つだと感じています。
「そうして築く絆は深いものです。」とMichel氏は説明します。「時間はかかりますが、一度関係を築けば、お互いをよく理解できるようになり、その後はとてもうまく機能します。」
これが、宇宙産業でキャリアを築こうとする人々への、Michel氏の二つ目の重要なメッセージです。
「異なる文化や働き方を通じて互いを高め合うことほど素晴らしいことはありません。」とMichel氏は力強く語ります。「これこそが、ESAとJAXAの協力が特別な価値を持つ理由です。」
小惑星Apophisの到来は、この考えを示す強力な実例となるでしょう。Apophisは地球に脅威をもたらすものではありませんが、二つの宇宙機関が協力してこの事象を探査し、地球を守る方法を学ぼうとしているという国際的な取り組みは、力強いメッセージです。Michel氏にとって、それは科学に匹敵するほどの価値があります。
「Apophisに注目が集まるころ、二つの機関が協力して同じ小惑星を探査しているのです。これはとても意義深いことです。一つの機関だけだったら、私はこんなに満足していなかったでしょう。」

(文: Elizabeth Tasker/ 訳:磯辺真純)
関連リンク:
・Ramses: ESA’s mission to asteroid Apophis (外部リンク)
・二重小惑星探査計画 Hera(JAXAサイト)
Cosmosブログの過去の記事:
・ESAとISAS、小型ミッションで挑む ”反乱同盟” の物語(2025年9月29日)
・地球を守れ!:プラネタリーディフェンス(惑星防衛)船隊(2024年11月8日)
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